工場で必要な技術・技能伝承とは? 第八回

仕事の基本
Rear view of a man standing on a hill with open arms looking at the sea and the sun. Man wearing backpack standing with stretched arms with sun in the background.

技能伝承ってどんなこと?

そんな疑問に答える「技術・技能伝承の第八回」です。

☑記事の内容

  1. 暗黙知を明確にして教材化する必要性
  2. 熟練者の考え、見方を知る

私は自動車メーカーの工場で改善活動の指導を10年以上行ってきました。実績を金額に換算すると1億円以上の改善を行なってきたいわゆる改善のプロです。

そんな私が解説します。

暗黙知を明確にして教材化する必要性

技術・技能伝承で重要なことは適切な教材を用いて指導するということです。今までOJTのみで行って成果が上がっているといった場合でも教材を準備することでさらなる成果が得られるものです。

特に暗黙知は明確にしないといつまでも暗黙知のままです。完全な言語化は必要ありませんが、学習者にとって適切な理解ができる程度の明確化は必要です。

つまり、技術・技能伝承により短期的に学習者を後継者に育成できる程度の「暗黙知を明確化した教材」が必要なのです。

熟練者の考え、見方を知る

暗黙知の伝承を進めるには熟練者が作業をどう捉えて、どのようにしているかという考えや物の見方を知ることが必要です。

  1. 行動様式と作業概念
  2. 熟練者の考え、見方は行動様式と作業概念で表されます。

行動様式

行動様式とは行動のスタイル、やり方です。大きく3つの項目に分けることができます。

  1. 高いパフォーマンス発揮への注力
  2. 作業プランの確立と適正化
  3. トラブル・事故の回避、安全への配慮

高いパフォーマンス発揮への注力

熟練者の行動で最もわかりやすい高パフォーマンスへの注力です。

高度スキルを追求していく中で、実行と検証・デバックを繰り返すことや作業にかかわる周辺環境をコントロールすることで安定化を図るといったことを行います。

また、製造業の基本である低コスト、納期厳守の追求も同時に行います。

作業プランの確立と適正化

熟練者は作業のプランを立てながら、随時修正し適正な作業を行う行動をとります。

実際に作業を行うときには暫定的な手順が頭に浮かんでいて行動を開始します。ここまではある一定の技能を有する作業者でも行っている行動になります。

熟練者は水分含有量、表面処理のばらつきといった素材の状態や道具や機械の状態、温度、湿度、といった変動する要素に対して適切な修正を行うことができるのです。

また、到達目標を具体的に設定できることも重要な行動です。画一的な目標でなく、現状に合わせた最適解を持ち合わせています。状況によってはベストの製品ではないもの(熟練者以外に見分けがつかないことが多い)を目標とすることもあります。

トラブル・事故の回避、安全への配慮

作業の基本である安全への配慮はもちろんですが、トラブルや事故の回避行動を行っています。

経験則的にトラブルや事故の予兆を理解している、ウィークポイントを把握しているなど暗黙知によるものも含みます。

作業概念

作業概念とは、熟練者の作業に対する考え方やモノの見方になります。大きく4つにわけることができます。

  1. 到達目標概念
  2. 空間上の行動概念
  3. 手段と時間の概念
  4. 場の概念

到達目標概念

到達目標概念とは、成果への概念です。

問題の現状把握やゴールの明確化、到達目標の指標化、ベンチマークの設定といったものです。

製品イメージの詳細を具体的な到達すべき成果イメージとしてと捉えることができます。そのために必要な品質やその評価の方法、判断基準を持ち合わせています。また、製品の機能、構造、やその動き(運動)、仕上がりの詳細についても把握しています。

空間上の行動概念

空間上の行動概念とは、行動や動作への概念です。

行為の全体像、具体的な行為の仕方、方法と成果・結果の関係といったものです。

手腕、足、体の運動の仕方やその動作の感覚といったものです。「じわっと動かす」「弾くようになでる」といった抽象的な言葉でしか表現できていないことがほとんどで暗黙知の明確化の難しいところでもあります。

その行為の全体イメージや対象物の変化に伴う対応といったことも把握しています。

手段と時間の概念

手段と時間の概念は計画への概念です。

プランの企画、方法の時系列的整理、段取り、トラブル回避といったものです。

最適な作業遂行プランのために必要な作業者の行動を設定できます。また、状況の変化などを時系列で想定し適切な工具、設備などの使用計画や投入人材の質と量といったものの判断を行います。

また、その遂行プランに応じた役割分担といったものです。

場の概念

場の概念とは作業環境への概念です。

作業環境への評価、状況判断、といったものです。

作業にとって最良の場となっているかの判断を行います。作業の実行上の諸条件や作業者の状態や状況の把握を行い、作業環境の変更へ対応します。

まとめ

記事のまとめです。

  1. 暗黙知を明確にして教材化することで技術・技能伝承の成功につながる
  2. 熟練者の行動様式と作業概念を理解し暗黙知の概要を知る
    1. 行動様式
      1. 高いパフォーマンス発揮への注力
      2. 作業プランの確立と適正化
      3. トラブル・事故の回避、安全への配慮
  3. 作業概念
    1. 到達目標概念
    2. 空間上の行動概念
    3. 手段と時間の概念
    4. 場の概念

技術・技能伝承の暗黙知の伝承を進めるためには、熟練者がその作業をどうとらえて(概念)どう行動しているかを特定することが必要です。

この暗黙知の理解のためには作業の観察だけでは足りず、熟練者への適切なインタビューが必要になります。インタビューをスムーズに進めるために熟練者へ事前に目的とインタビューの内容を説明し、準備期間を持つといった工夫も必要になります。