
技能伝承ってどんなこと?
そんな疑問に答える「技術・技能伝承の第三回」です。
☑記事の内容
- 技術・技能伝承の必要性について考える
- 技術・技能伝承を日常の活動にするために必要なこと
- 技術・技能伝承の進め方
私は自動車メーカーの工場で改善活動の指導を10年以上行ってきました。実績を金額に換算すると1億円以上の改善を行なってきたいわゆる改善のプロです。
そんな私が解説します。
技術・技能伝承の必要性について考える
技術・技能伝承を行うためにはなぜ必要なのかを十分に理解する必要があります。
技術・技能伝承とは、その継承すべき技術・技能が継承者によって再現できれば良いだけではありません。技術・技能伝承は現場の人材の一人ひとりの能力、力量、組織力の維持・発展のために必要なのです。
現場の人材の一人ひとりの能力、力量、組織力を「現場力」といいます。「現場力」は生産性向上、品質向上のニーズやCR(コストリダクション)、技術革新といったことへの対応により発達するものです。
これらの様々な活動をスムーズに進めていくために技術・技能伝承が必要となるのです。
技術・技能伝承を日常の活動にするために必要なこと
技術・技能伝承はイベント的、スポット的な活動ではなく日常的に行われる必要があります。なぜなら、高い効果を上げるには継続的な実践が必要だからです。
技術・技能伝承を日常的な活動にするためには6つのポイントがあります。
- 技術・技能伝承の基本的・基礎的な知識の学習
- 活動の取り組みやすさを重視する
- 活動内容、状況がオープンである
- 役割と責任が明確になっている
- 活動の時間的自由度が高い
- 相談、サポートの体制がある
技術・技能伝承の基本的・基礎的な知識の学習
関係者が技術・技能伝承の基本的・基礎的な知識を学習する必要があります。これは活動を進めていくためベースとして必要です。必要に応じて活動開始初期に勉強会を開催することも検討します。
また、活動における学習も選ばれたメンバーだけが学習できる環境でなく全員が学習できる環境の整備が必要です。オープンな場所へ活動用の共有フォルダを設置し、だれでも資料や動画にアクセスできる状態にします。
この基本的・基礎的な知識レベルが一定上の水準にあることにより、参加者の共通認識となります。
活動の取り組みやすさを重視する
日常的な技術・技能伝承をは全員参加で行う必要があります。そのために活動の取り組みやすさを重視する必要があります。
取り組みやすさとは、活動する場所が特殊でなないこと、活動の時間や場所に制限がないこと、単独でも、複数のメンバーでも活動できることなどがあります。
活動内容、状況がオープンである
活動内容、状況が見えるようにします。活動掲示板を工場内に設置するだけでなく、社内ネットワークでオープンにしておきます。
役割と責任が明確になっている
役割と責任を明確にし、共有します。これにより各自が自立して役割を進め、優れた成果につながります。
活動の時間的自由度が高い
活動の時間的制約を極力なくすようにします。短時間でも取り組めることを準備しておくことが必要です。
ちょっとした空き時間に活動できることは、活動参加への心理的ハードルを下げることができます。
相談、サポートの体制がある
活動に関して相談、サポートの体制を整備します。
どんな活動でも問題点や改善点が発生します。それらに対応できるサポート体制が必要です。
技術・技能伝承の進め方
技術・技能伝承の進め方は以下のようにして進めます。
- 組織作り
- 経営戦略に基づいた能力項目リストの作成
- 能力項目リストによる能力マップの作成
- 能力マップより技術・技能伝承の対象技能の選定
- 能力マップより指導者と学習者の選定
- 伝承計画の作成
- 実施準備
- 伝承教材・道場の整備
- 指導の実施
- 成果の検証
組織作り
工場での技術・技能伝承を行う場合には組織づくりが必要です。
「技術・技能伝承推進委員会」といった組織を作ります。委員長には工場長クラスの人を任命し、事務局を工場内の適切な部門に設置します。
組織の主な役割は以下の4つです。
- 技術・技能伝承に関する企画・運営を実施すること
- 工場内の活動を推進すること
- 技術・技能伝承に関わる調査研究をすること
- そのほか技術・技能伝承に関すること
経営戦略に基づいた能力項目リストの作成
経営戦略、経営課題に対して「能力項目リスト」を作成します。
経営戦略、経営課題を実現するために、現有の技能・技術はどう変わるべきなのか?不変なものは何か?誰が保有している技術・技能の伝承が必要なのか?新たに加える必要がある技術・技能は何か?などを検討し「能力項目リスト」を作成します。
能力項目リストによる能力マップの作成
「能力項目リスト」に基づいて現在の作業者の保有能力を把握し「能力マップ」を作成します。
能力マップより技術・技能伝承の対象技能の選定
「能力マップ」を参考に技術・技能伝承の対象技能を選定します。
重要度が高く不足の大きな能力項目から優先順位をつけて選定していきます。暗黙知が多く習得に時間がかかるものは優先します。
不足している能力の中でも新しい道具や機器の導入によって補完できる/習得の難易度を下げることができる事項がないかも確認します。
能力マップより指導者と学習者の選定
「能力マップ」で明らかになった作業者の能力水準に応じて、能力水準が高い人を指導者に、能力水準の低い人を学習者に選定します。
伝承計画の作成
伝承計画を作成します。
伝承する技術・技能ごともしくは学習者ごとに、誰がいつまでにどの能力をどの程度学習する必要があるかを計画します。
実施準備
技術・技能伝承の実施の準備として暗黙知の明確化を行っていきます。
技術・技能伝承は従来の見よう見まねでの指導法を採用しません。分析に基づき「なぜそのようにするのか」「どうすれば成功するのか」「どうしたら失敗するのか」などを明らかにし、指導します。
伝承教材・道場の整備
準備段階で明らかになった暗黙知の分析結果をもとに伝承教材・道場の整備を行います。
手順書などの教材とともに、動画を使った教材を作成することが高い効果を発揮します。手順書などに必要な画像は動画を撮影すれば、キャプチャー機能により必要な画像を切り出すことができます。
指導の実施
実際に指導を行っていきます。
指導者になる人は指導方法の基礎的な知識を学習しておく必要があります。
成果の検証
成果の検証は「知識」「技能の再現性」で検証します。最終的な目標は学習者が指導者に代わって作業できるかどうか?です。
まとめ
記事のまとめです。
- 技術・技能伝承は「現場力」の維持・発展のために必要
- 技術・技能伝承は日常的に行う
- 技術・技能伝承の進め方
- 経営戦略に基づく項目決定
- 技術・技能伝承の対象技能決定
- 伝承計画の作成
- 暗黙知の明確化作業
- 伝承教材・道場の準備
- 指導の実施
- 成果の確認
技術・技能伝承についての解説、第三回でした。
技術・技能伝承の内容の理解、暗黙知の姿に対する考え方、作業の革新を当然とする考え方があればはそんなに困難なことではありません。
技術・技能伝承は技術・技能の創造活動でもあると捉えて活動してみましょう。