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多能工化の進め方

最終更新: 2026-07-13

💬 「多能工化を進めろ」と言われたけど、何から手を付ければいいのか分からないんだよなぁ、、、。

💬 手順書は作ったのに、結局ベテランの背中を見て覚えさせるだけで、人が育たない、、、。

💬 スキルマップって聞くけど、どう作って、どう使えばいいの?

そんな『多能工化と教育の進め方』という悩みにお答えします。

目次

☑ 記事の内容

  1. 多能工化とは何か ── メリット (応援・平準化・欠員に強い)
  2. スキルマップ (工程別能力表) の作り方・見方
  3. 育成計画の立て方と、手順書を使った OJT (見せる → やらせる → 確認する)
  4. 力量評価と、教育を 定着させる仕組み
  5. つまずきやすい点と Q&A

わたしは自動車メーカーの工場で改善活動の指導を 10 年以上行ってきました。実績を金額に換算すると 1 億円以上の改善を行ってきた、いわゆる改善のプロです。そのなかで、スキルマップ (工程別能力表) を貼り、作業者一人ひとりに手順書を使って教え、多能工化を進めてきました。多能工化は「人手が足りないから、みんなに色々やらせる」ことではありません。手順書と標準作業という土台の上で、一人ひとりを計画的に育てていく取り組み です。本記事では、わたしが現場でやってきた通りに、スキルマップの作り方から教え方の型、定着のさせ方までを、中小製造業でもそのまま進められるかたちで整理していきます。

そんなわたしが解説していきます。

本記事は 手順書を使った教育と多能工化の進め方 に絞った内容です。手順書と標準作業をあわせた全体像から知りたい方は、まずまとめ記事の ▶ 作業手順書・標準作業の作り方 完全ガイド を先にご覧ください。また、本記事で使う「スキルマップ」は、標準作業のなかで出てくる 工程別能力表 を人の力量の面で使ったものです。工程別能力表そのものの成り立ちは ▶ 標準作業とは (工程別能力表) で解説しているので、あわせて読むと理解が深まります。

多能工化とは ── 1 人が複数の工程をこなせる状態にすること

まず 1 行で言い切ります。多能工化とは、1 人の作業者が、複数の工程や作業をこなせるようにすること です。

「1 人 1 工程」で固定されている現場は、その人が休むと工程が止まります。忙しい工程があっても、応援に行ける人がいません。多能工化は、この「人で回せない」状態から抜け出すための取り組みです。そして多能工化は、思いつきで人を動かすことではなく、手順書と標準作業を土台に、計画的に進めるもの です。まずは多能工化とは何か、なぜ必要かを整理します。

多能工化の 1 行定義

多能工化とは、1 人の作業者が複数の工程をこなせるようにし、現場を「人」で柔軟に回せるようにすること です。反対の状態が「1 人 1 工程」で、その工程はその人しかできない状態です。

大事なのは、多能工化は「誰でも何でもできるようにする」という乱暴なものではない、という点です。どの人に、どの工程を、どの順番で覚えてもらうかを決めて、一つずつ計画的に広げていきます。この「計画的に」という部分が、後で出てくるスキルマップと育成計画です。

多能工化の 3 つのメリット

多能工化を進めると、現場に次の 3 つのメリットが生まれます。

メリットひと言でいうと
① 応援できる忙しい工程や遅れている工程に、手の空いた人を回せる
② 平準化できる人と仕事のムラをならし、特定の人・工程への偏りを減らせる
③ 欠員に強い誰かが休んでも、別の人が代われるので現場が止まらない

つまり、多能工化された現場は「人を工程に固定した現場」より 強く、しなやか になります。注文が急に増えても応援で乗り切れ、急な欠勤があっても止まりません。この 3 つが、多能工化を進める一番の狙いです。

なぜいま多能工化が必要か ── 属人化のリスクをなくす

いま多くの現場が、人手不足に直面しています。人が採りにくいからこそ、いまいる人が複数の工程をこなせることの価値が高まっています。

もう 1 つの理由が「属人化」です。属人化とは、その作業がその人しかできず、他の人には分からない状態 のことです。属人化した工程は、その人が辞めたり休んだりすると一気に回らなくなります。「あの人がいないと、あの工程は動かない」という現場は、実はとても危ないのです。多能工化は、この属人化のリスクをなくす取り組みでもあります。

多能工化は「手順書と標準化」があって進む

ここが本記事で一番伝えたい点です。多能工化は、教える中身 (標準) がそろっていて初めて、まっすぐ進みます

教える標準がないと、A さんはこう教え、B さんはああ教える、と教え方がバラバラになります。すると、覚える人によってやり方が変わり、品質も安全もバラつきます。作業手順書や標準作業は「決まりを守らせる紙」ではなく、みんなを同じやり方で育てるための土台 です。手順書の作り方は ▶ 作業手順書の作り方 で、教えやすい手順書にするコツは ▶ わかりやすい手順書のコツ でくわしく解説しています。

スキルマップ (工程別能力表) の作り方 ── 誰が何をできるかを 1 枚で見える化する

多能工化を進める最初の道具が スキルマップ です。スキルマップとは、誰がどの工程を、どれくらいできるかを 1 枚の表で見える化したもの のことです。これがないと、どこが弱くて、誰を育てればいいかが分かりません。

なお、このスキルマップは、標準作業で出てくる 工程別能力表 を「人の力量」の面で使ったものです。同じ「工程別に並べた表」を、設備の能力ではなく人の力量で見る、と考えてください。ここでは作り方と見方を順に説明していきます。

スキルマップ (工程別能力表) の作り方・見方 縦 = 作業者 横 = 工程・作業 作業者 \ 工程 プレス 溶接 組立 検査 A さん B さん (空白) C さん (空白) 溶接は「教えられる人(●)」が B さん 1 人 → 属人化。検査は空白が多い → 育成対象 習熟度は 4 段階で表す(円を塗る量で示す) レベル 1 = 教われば少しできる(見習い) レベル 2 = 手順書を見ればできる レベル 3 = 1 人でできる(一人前) レベル 4 = 人に教えられる(指導できる) 空白 = できない(育成対象)。多能工化は、この空白を計画的に埋めていく取り組み 縦に作業者・横に工程を並べ、各マスに習熟度マークを入れて、空白と偏りを一目で見える化する

スキルマップとは

スキルマップとは、縦に作業者、横に工程 (作業) を並べ、それぞれのマス目に「その人がその工程をどれくらいできるか」を書き込んだ表 のことです。日本語では「力量表」「多能工化マップ」などとも呼ばれます。

1 枚見れば「この工程は 1 人しかできない」「この人は 1 工程しかできない」といった弱点が、ひと目で分かります。多能工化は、この表の 空白 (できない部分) を計画的に埋めていく 取り組みだと言えます。まずは表を作るところから始めます。

スキルマップの作り方

スキルマップは、次の順番で作ります。難しく考えず、表計算ソフトや模造紙で十分です。

  1. 現場の 工程・作業を横 (列) に洗い出す (例: プレス・溶接・組立・検査…)
  2. 作業者を縦 (行) に並べる
  3. 各マス目に、その人のその作業の 習熟度をマークで書き込む (次の 4 段階)
  4. 表全体を眺めて、空白 (できない) と偏り (1 人だけできる) を確認する

ポイントは、工程を細かく分けすぎないことです。まずは大きな工程の単位で作り、あとから必要に応じて細かくしていくと、手が止まりません。

習熟度は 4 段階で表す

各マス目に書く習熟度は、4 段階 で表すのが定番です。円を 4 分割にして塗る量で示すと、見た目でも分かりやすくなります。

レベル状態マーク例
レベル 1教われば少しできる (見習い)
レベル 2手順書を見ればできる
レベル 31 人でできる (一人前)
レベル 4人に教えられる (指導できる)

この 4 段階の良いところは、「できる・できない」の 2 択ではなく、途中段階が見える ことです。「あと一歩で 1 人でできる」「もう教えられるレベル」といった状態が分かるので、次に何を教えればいいかがはっきりします。とくに レベル 4 (人に教えられる) の人が各工程に何人いるかは、後で育成を回すときの要になります。

スキルマップの見方 ── 3 つの弱点を読み取る

作ったスキルマップは、次の 3 つの弱点を読み取るために使います。

  • 1 人しかできない工程 (属人化): その列にレベル 3 以上が 1 人しかいない工程。その人が抜けると止まる危険な工程です
  • 空白の多い人 (育成対象): その行に空白が多い作業者。これから育てていく対象です
  • 教えられる人 (レベル 4) がいない工程: 教える人がいないと、その工程は広げられません。まずレベル 4 を作る必要があります

このように、スキルマップは「現場のどこが弱いか」を教えてくれる健康診断表です。眺めて終わりにせず、次の育成計画につなげます。

スキルマップは工程別能力表とつながっている

先に触れたとおり、スキルマップは標準作業の 工程別能力表 と同じ「工程別に並べた表」を、人の力量の面で使ったものです。

工程別能力表そのものは、各工程・設備が「何個作れるか」を調べてネック工程を見つける調査票です。その詳しい成り立ちや、標準作業3票のなかでの位置づけは ▶ 標準作業とは (工程別能力表) で解説しています。本記事では、この表を「人を育てる道具」として使う面に絞って進めます。

育成計画の立て方 ── 誰に、どの工程を、いつまでに

スキルマップで弱点が見えたら、次は 育成計画 を立てます。育成計画とは、スキルマップの空白を、いつ・誰が・誰に埋めていくかを決めた計画 のことです。

「多能工化を進めろ」という号令だけで人は育ちません。誰から手を付けるか、いつまでにどのレベルにするか、教えるのは誰かを決めて、はじめて動きます。ここでは計画の立て方を順に見ていきます。

育成計画とは

育成計画とは、スキルマップのどの空白を、いつまでに、誰が誰に教えて埋めるかを書いたもの のことです。難しい書式は要りません。スキルマップの横に「いつ・誰が・誰を・どのレベルまで」を書き足すだけでも立派な計画になります。

大事なのは「全部を一度に」ではなく、優先順位をつけて一つずつ 進めることです。次にその優先順位の付け方を説明します。

育成の優先順位の付け方

どの空白から埋めるかは、次の 3 つの順で考えると決めやすくなります。

  1. 属人化している工程 ── 1 人しかできない工程は、いちばんのリスク。まずここに 2 人目を育てます
  2. ネック工程 ── 生産量を決めている一番遅い工程。ここに応援を回せると全体が良くなります (ネック工程の見つけ方は工程別能力表の記事で解説)
  3. 本人の適性・希望 ── 上の 2 つを踏まえたうえで、本人が伸びやすい・やりたい工程を選ぶ

とくに ① の属人化の解消は最優先です。「あの人しかできない工程」を放置したままだと、多能工化の効果 (欠員に強い・応援できる) が出ません。

目標を「いつまでに・どのレベルまで」で書く

育成の目標は、あいまいにせず 「誰を・どの工程で・いつまでに・どのレベルまで」 と具体的に書きます。

  • 悪い例: 「○○さんに溶接を覚えさせる」
  • 良い例: 「○○さんを溶接工程で、3 ヶ月後までにレベル 3 (1 人でできる) にする」

このように期限とレベルを入れると、教える側も教わる側もゴールが分かり、途中で「どこまで来たか」を確認できます。目標のレベルは、まずは レベル 3 (1 人でできる) を当面のゴールに置くのがおすすめです。

教える人 (OJT 担当) を決める

計画には、誰が教えるか (OJT 担当) を必ず入れます。教える人は、スキルマップで レベル 4 (人に教えられる) の人から選びます。

もしその工程にレベル 4 がいなければ、まず「教えられる人を 1 人作る」ことが先の課題になります。教える人が決まっていない育成計画は、絵に描いた餅で終わります。「誰が教えるか」まで決めて、はじめて計画が動き出します。

手順書を使った OJT ── 「見せる → やらせる → 確認する」の型

計画ができたら、いよいよ現場で教えます。ここで大事なのが、教え方に「型」を持つ ことです。教え方の型がないと、教える人によって伝わる内容が変わってしまいます。

現場での教育は OJT (オー・ジェイ・ティー) と呼ばれます。OJT とは、実際の仕事をしながら、その場で教えていく育成の方法 のことです。この OJT を、手順書を教材にして「見せる → やらせる → 確認する」の 3 段階で進めるのが、失敗の少ない型です。

なぜ「背中を見て覚えろ」ではダメか

昔ながらの「ベテランの背中を見て覚えろ」というやり方は、多能工化には向きません。教え方が人によって違うと、覚える内容もバラつく からです。

見て覚えさせると、教える人のクセや自己流までそのまま伝わります。しかも「なぜそうするか」という急所が言葉になっていないので、応用が利きません。多能工化を計画的に進めるには、誰が教えても同じ内容が伝わる、そろった教え方が必要です。

手順書を「教材」として使う

そろった教え方を実現する道具が、作業手順書 です。写真と急所 (必ず守るポイント) が入った手順書があると、教える側の説明がそろい、教わる側も後から見返せます。

だからこそ、教育に使う手順書は「分かりやすさ」が命になります。写真・図・急所の付け方といった、教えやすい手順書にするコツは ▶ わかりやすい手順書のコツ でくわしく解説しています。手順書は、多能工化の「教科書」だと考えてください。

教え方の型①「見せる」

第1段階は「見せる」です。手順書を見せながら、正しいやり方と急所を、教える人が実際にやって見せます

このとき大切なのは、動きを見せるだけでなく 「なぜそうするのか」という急所を言葉で伝える ことです。「ここはこの向きで入れる。ずれると次の工程で入らないから」というように、理由をセットで見せます。理由が分かると、教わる人は自分で正しく判断できるようになります。

教え方の型②「やらせる」

第2段階は「やらせる」です。次に、本人に実際にやってもらいます。見ているだけでは、できるようになりません。

ここでのコツは、本人に急所を口で言わせながら手を動かしてもらう ことです。「ここはこの向き。理由は次の工程で入らなくなるから」と本人に説明させると、ただ手が動くだけでなく、頭で理解できているかが分かります。間違えたら、その場で正しいやり方に直します。

教え方の型③「確認する」

第3段階は「確認する」です。最後に、本人が手順書のとおりにできているかを確認します。とくに品質と安全の急所を外していないかを、手順書と照らして見ます。

できていれば合格、できていなければ「見せる」に戻ってやり直します。この確認を省くと、「教えたつもり」で終わってしまい、実は正しくできていない、ということが起きます。確認までやって、はじめて 1 つの教育が完了します。

教えたつもりで終わらせない ── 「分かった」と「できる」は違う

多能工化の教育で一番多い失敗が、「分かった」で終わらせてしまう ことです。本人が「分かりました」と言っても、実際に手を動かすとできないことはよくあります。

「分かった」と「できる」は違います。だから、必ず本人にやらせて、確認するところまでを 1 セットにします。「見せる → やらせる → 確認する」を回して、はじめて「できる」に届きます。手を動かして確認するまでが教育だ、と覚えてください。

多能工化を進める 7 ステップ ── スキルマップから定着まで

ここまでの内容を、現場で回す順番として 7 ステップ に束ね直します。多能工化は、次の流れで進めると迷いません。

多能工化の進め方 7 ステップ 1 現状把握 スキルマップを 作って見える化 2 目標設定 どの工程を誰に どのレベルまで 3 育成計画 優先順位・期限 OJT 担当を決める 4 手順書を整える 教材となる手順書 写真・急所を入れる 5 OJT で教える 見せる→やらせる →確認する 6 力量評価 できたレベルを評価 スキルマップ更新 7 定着・拡大 次の工程・次の人へ 広げ続ける ⑦ まで来たら ① に戻り、次の空白・次の人へと広げ続ける(ぐるぐる回す) ① 現状把握 → ② 目標設定 → ③ 育成計画 → ④ 手順書を整える → ⑤ OJT で教える → ⑥ 力量評価 → ⑦ 定着・拡大 →(①へ)

ステップ 1 ── 現状を把握する (スキルマップを作る)

まず、誰が何をどこまでできるかを スキルマップ で見える化します (「スキルマップ (工程別能力表) の作り方」の章を参照)。ここが多能工化の出発点です。現状が見えないまま進めると、どこを育てればいいか分からず、行き当たりばったりになります。

ステップ 2 ── 目標を決める (どの工程を、誰に、どのレベルまで)

スキルマップの空白と弱点をもとに、「どの工程を、誰に、どのレベルまで」 の目標を決めます。属人化した工程・ネック工程を優先するのが基本です。

ステップ 3 ── 育成計画を立てる (優先順位・期限・OJT 担当)

目標を、いつまでに・誰が教えるか まで落とし込んだ育成計画にします (「育成計画の立て方」の章を参照)。優先順位・期限・OJT 担当の 3 点がそろって、計画が動き出します。

ステップ 4 ── 教える手順書を整える

教える前に、教材となる手順書 を整えます。写真と急所が入った、教えやすい手順書にしておきます。手順書そのものの作り方は ▶ 作業手順書の作り方 を、わかりやすくするコツは ▶ わかりやすい手順書のコツ を参照してください。

ステップ 5 ── OJT で教える (見せる → やらせる → 確認する)

手順書を教材に、「見せる → やらせる → 確認する」 の型で教えます (「手順書を使った OJT」の章を参照)。教えっぱなしにせず、確認まで必ずやります。

ステップ 6 ── 力量を評価し、スキルマップを更新する

教えたら、本人が どのレベルまでできるようになったかを評価 します。評価したら、その結果をスキルマップに書き込んで更新します。力量評価のやり方は次の章でくわしく説明します。

ステップ 7 ── 定着させ、次の工程・次の人へ広げる

覚えた作業が定着するよう、実際にその工程を担当してもらいます。そして、次の空白へ、次の人へと、ステップ 1 に戻って広げ続けます。多能工化はここで終わりではなく、ぐるぐると回し続けるものです。

力量評価の仕方 ── 「できる」を客観的に判断する

多能工化を進めるうえで欠かせないのが、力量評価 です。力量評価とは、その人がその作業をどのレベルでできるかを、決めた基準で判断すること です。

「なんとなくできそう」という感覚で判断すると、人によって甘い辛いが出ます。基準を決めて客観的に評価することで、スキルマップの信頼性が保たれます。ここでは評価の考え方を整理します。

力量評価とは

力量評価とは、その人がその作業を「4 段階のどのレベルでできるか」を、決めた基準で判断すること です。力量とは「その作業をどれだけできるか」という意味です。

評価は、テストのように身構える必要はありません。実際に作業をやってもらい、決めた基準を満たしているかを見るだけです。大事なのは、次に説明する 「基準」 を先に決めておくことです。

評価の基準は手順書の「急所」で決める

評価の基準は、手順書の「急所」 で決めます。急所とは、品質・安全のうえで 必ず守らなければならないポイント のことです。

  • 品質の急所を外していないか (例: 決められた向き・トルクで締められているか)
  • 安全の急所を守れているか (例: 手を入れる前に電源を切っているか)
  • 決められた時間 (タクトタイム) のなかでできているか

これらの急所を外さずにできて、はじめて「1 人でできる (レベル 3)」と判断します。基準を手順書の急所に紐づけておくと、誰が評価しても同じ判断になります。

評価したらスキルマップを更新する

力量を評価したら、その結果をスキルマップに反映 します。レベル 2 だった人がレベル 3 に上がったら、マス目のマークを塗り替えます。

こうしてスキルマップを最新に保つことで、次に誰を育てるか・誰が教えられるかが常に見える状態になります。評価は「やって終わり」ではなく、スキルマップの更新までがワンセット です。

力量評価は「落とすため」でなく「次を決めるため」

最後に、力量評価の目的を確認します。力量評価は、人を落とすため・順位をつけるためのものではありません。「次に何を教えればいいか」を決めるためのものです。

「ここはできている、ここがまだ」という差が分かれば、次の教育の的が絞れます。評価される側が身構えず、前向きに受け取れるように、「あなたを伸ばすための確認だ」という姿勢で行うことが大切です。

多能工化・教育でつまずきやすい 4 つの点

多能工化を進めるとき、現場で本当によく起きるつまずきが 4 つあります。先に知っておくと、避けられます。

つまずき 1 ── ベテランが教えたがらない

多能工化でよくあるのが、ベテランが自分の技を教えたがらない ことです。「自分の仕事が無くなる」「立場が下がる」と感じてしまうためです。

対策は、「人に教えられること (レベル 4)」を高い力量として正しく評価し、処遇でむくいる ことです。教えることが評価につながり、本人の立場を高めると分かれば、ベテランは前向きに教えるようになります。多能工化は、教える人を大切にする仕組みとセットで進めます。

つまずき 2 ── 教える手順書が古い・現場と違う

もう 1 つ多いのが、教材の手順書が古く、いまの現場と食い違っている ことです。古い手順書で教えると、間違ったやり方や、いまはやっていない手順まで教えてしまいます。

手順書は、作って終わりではなく、現場が変わったら直し続ける必要があります。手順書を形だけにせず、現場と合った状態に保つ運用については、近日公開の別記事でくわしく解説します。

つまずき 3 ── 教えっぱなしで確認しない

3 つ目は、教えたつもりで、できたかを確認しない つまずきです。「一度説明したから大丈夫」と思い込み、本人がまだできていないのに次に進んでしまいます。

対策は、「手順書を使った OJT」の章で説明した 「見せる → やらせる → 確認する」の確認を省かない ことです。本人に手を動かさせ、急所を外していないかを確認するまでを、必ず 1 セットにします。「分かった」と「できる」は違う、を忘れないようにします。

つまずき 4 ── 一気に多くの工程を広げすぎる

4 つ目は、あせって一度に多くの工程を教えてしまう つまずきです。同時に何工程も詰め込むと、どれも中途半端になり、結局身につきません。

多能工化は、1 人につき 1 工程ずつ、スキルマップの空白を優先順で埋めていく のが着実です。1 つの工程がレベル 3 (1 人でできる) に届いてから、次の工程に進みます。急がば回れで、一つずつ確実に広げるのが、結局いちばん早い進め方です。

教育を定着させる仕組み ── 続く現場にするために

多能工化と教育は、一度やって終わりでは元に戻ってしまいます。続く仕組みにする ことで、はじめて現場に根づきます。ここでは、定着のための 4 つの仕組みを整理します。

スキルマップを定期的に見直す

スキルマップは、貼りっぱなしにすると古くなります。半年〜1 年ごとに見直し、更新する ことで、空白と偏りを追い続けられます。

人は入れ替わり、工程も変わります。定期的に見直すことで「新しい属人化」や「新しい育成対象」に早く気づけます。スキルマップは、生きた状態で使い続けるのが基本です。

「教えられる人 (レベル 4)」を増やす

多能工化を回し続けるカギは、教えられる人 (レベル 4) を増やす ことです。教える人が 1 人しかいないと、その人が忙しいと育成が止まります。

「1 人でできる (レベル 3)」まで来た人には、次に「人に教えられる (レベル 4)」を目指してもらいます。教えられる人が各工程に複数いる状態になると、育成が現場全体で回るようになります。

育成を現場の目標に組み込む

教育を個人まかせにすると、日々の忙しさに流されて後回しになります。「今期は △△ 工程を◯人育てる」という育成の目標を、現場の目標に組み込む ことで、教育が仕事の一部になります。

生産数の目標だけでなく、育成の目標も掲げて追いかける。これが、教育を続く仕組みにする一番の近道です。

手順書の質が、教育の質を決める

最後に、本記事で一番伝えたいことをもう一度書きます。手順書の質が、そのまま教育の質になります

分かりにくい手順書では、いくら「見せる → やらせる → 確認する」の型を守っても、伝わる中身がぼやけます。逆に、写真と急所が整った手順書があれば、教える人が代わっても同じ品質で教えられます。多能工化を本気で進めるなら、まず手順書を整えるところから始めてください。手順書そのものの作り方は ▶ 作業手順書の作り方 で、わかりやすくするコツは ▶ わかりやすい手順書のコツ で解説しています。

よくある質問 Q&A

Q1: 多能工化とは何ですか?

多能工化とは、1 人の作業者が複数の工程をこなせるようにすること です。メリットは、忙しい工程に応援を回せること、人と仕事のムラをならせること (平準化)、誰かが休んでも現場が止まらないこと (欠員に強い) の 3 つです。人手不足の現場ほど、多能工化の価値は高くなります。

Q2: スキルマップと工程別能力表は違うものですか?

同じ「工程別に並べた表」を、見る面が違うだけ です。工程別能力表は各工程・設備が「何個作れるか」という能力を見る表で、スキルマップはそれを「誰がどの工程をどこまでできるか」という人の力量で見たものです。工程別能力表そのものは ▶ 標準作業とは (工程別能力表) でくわしく解説しています。

Q3: 多能工化は何から始めればいいですか?

まず スキルマップを作る ことから始めます。誰が何をどこまでできるかを見える化し、1 人しかできない工程 (属人化した工程) から 2 人目を育てていきます。全部を一度にやろうとせず、優先順位をつけて一つずつ進めるのがコツです。

Q4: 手順書がなくても多能工化は進められますか?

進められますが、おすすめしません。手順書がないと 教える人によってやり方がバラつき、覚える人ごとに品質が変わってしまうからです。写真と急所の入った手順書があると、誰が教えても同じ内容が伝わります。手順書の作り方は ▶ 作業手順書の作り方 を参照してください。

Q5: ベテランが教えるのを嫌がります。どうすればいいですか?

「人に教えられること」を 高い力量 (レベル 4) として正しく評価し、処遇でむくいる のが基本の対策です。教えることが本人の評価と立場を高めると分かれば、前向きに教えてくれるようになります。多能工化は、教える人を大切にする仕組みとセットで進めます。

Q6: 力量評価はどう客観的にすればいいですか?

評価の基準を、手順書の「急所」 で決めます。品質・安全の急所を外さずにできて、決められた時間のなかでできれば「1 人でできる (レベル 3)」と判断します。基準を手順書に紐づけておくと、誰が評価しても同じ判断になります。評価したらスキルマップを更新するまでをワンセットにします。

まとめ

本記事で押さえてほしい 3 行サマリーは以下の通りです。

  1. 多能工化 = 1 人が複数の工程をこなせる状態。応援・平準化・欠員に強い、しなやかな現場になる
  2. スキルマップ (工程別能力表) で「誰が何をどこまでできるか」を見える化し、空白を育成計画で優先順に埋める
  3. 教え方は 「見せる → やらせる → 確認する」 の型で。そして 手順書の質が、教育の質を決める

多能工化と、手順書を使った教育の進め方について解説しました。多能工化は「みんなに何でもやらせる」ことではなく、手順書と標準作業を土台に、一人ひとりを計画的に育てていく ことです。最初から全工程を広げようとせず、まずはスキルマップを 1 枚作り、属人化した工程から一つずつ育てていきましょう。コツコツと積み上げて、人で強く回せる現場をつくっていきましょう。

関連記事

このほか、手順書を形だけにしない運用・改訂の進め方や、動画を使った作業の観測・マニュアル化については、近日別記事で公開予定です (動画活用は ▶ AI動画解析で作業をマニュアル化する方法 でも解説しています)。

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