最終更新: 2026-07-13
💬 がんばって作業手順書を作ったのに、現場で誰も読んでくれない、、、。
💬 写真も入れて丁寧に書いたつもりなのに、なぜか伝わらないんだよなぁ、、、。
💬 同じ手順書を見ても、人によってやり方の解釈がバラバラになる、、、?
そんな『わかりやすい作業手順書の書き方』についての悩みにお答えします。
- 1 わかりやすい手順書とは ── 「その通りにやれば、誰でも同じにできる」1枚
- 2 わかりにくい手順書が生まれる 5 つの理由 ── まず「なぜ伝わらないか」
- 3 わかりやすさの 6 原則 ── これを押さえれば伝わる
- 4 急所 (コツ・理由・勘所) の書き方 ── 手順書の心臓部
- 5 3H (初めて・変更・久しぶり) を意識する ── 誰がいつ読むか
- 6 写真・図・イラストの使い方 ── 文字で難しい所を絵にする
- 7 色・番号・レイアウトで見やすくする ── 目線が迷わない1枚に
- 8 動画を使う手もある ── 動きは動画が得意
- 9 わかりにくい手順書 ✕ わかりやすい手順書 ── NG例とOK例
- 10 わかりやすさを保つ ── 作って終わりにしない
- 11 よくある質問 Q&A
- 12 まとめ
☑ 記事の内容
- わかりにくい手順書が生まれる 5 つの理由 (なぜ伝わらないのか)
- わかりやすさの 6 原則 (1手順1動作・具体語・写真図・急所・3H・レイアウト)
- 急所 (コツ・理由・勘所) の書き方 ── 手順書の心臓部
- 3H (初めて・変更・久しぶり) を意識した書き分け
- 写真・色・番号の使い方 / NG例とOK例 / Q&A
私は自動車メーカーの工場で改善活動の指導を 10 年以上行ってきました。実績を金額に換算すると 1 億円以上の改善を行ってきた、いわゆる改善のプロです。今は中小企業診断士として、私は中小製造業の現場改善や標準化のお手伝いをしています。その中で、たくさんの作業手順書を現場と一緒に作ってきましたが、いちばん多い相談は「作ったのに使われない」というものでした。そして、使われない手順書には決まった共通点があります。それは「わかりにくい」ということです。逆に言えば、わかりやすくする工夫さえ押さえれば、手順書は一気に「現場が見て使う 1 枚」に変わります。本記事では、私がふだん現場で使っている、わかりやすくするコツをそのまま順番に整理していきます。
そんなわたしが解説していきます。
本記事は、作った手順書を「現場が本当に見て、その通りにできる」ものにするための工夫 をまとめた内容です。手順書そのものの作り方 (型・入れる項目・作る手順) から知りたい方は、先に姉妹記事 ▶ 作業手順書の作り方 を読んでください。基本ができている前提で、本記事は「どう見せれば伝わるか」を深掘りします。また、作業手順書から標準作業まで含めた全体像から知りたい方は、まずまとめ記事 ▶ 作業手順書・標準作業の作り方 完全ガイド を目次のように使ってください。
わかりやすい手順書とは ── 「その通りにやれば、誰でも同じにできる」1枚
まず、「わかりやすい手順書」とは何かをそろえておきます。わかりやすい作業手順書とは、読んで内容が分かるだけでなく、その通りにやれば誰でも同じ結果を出せる 1 枚 (1つの文書) のことです。
ここで大事なのは、「読みやすい」と「わかりやすい」は違うということです。文字がきれいに並んでいても、その通りにやって同じ品質が出せなければ、現場では「わかりにくい手順書」です。読み手が迷わず、同じ動きを再現できて、はじめて「わかりやすい」と言えます。
わかりやすい=「読んで分かる」+「その通りにできる」
わかりやすい手順書には、2 つの条件があります。
- 読んで分かる ── 何を、どの順番で、どうやるかが、迷わず頭に入る
- その通りにできる ── 書いてある通りにやれば、書いた人と同じ結果になる
この 2 つがそろって、はじめて現場で使われます。片方だけ、たとえば「きれいだけど、その通りにやると失敗する」手順書は、すぐに見られなくなります。本記事では、この両方を満たすための具体的なコツを解説していきます。
手順書の「作り方の基本」は姉妹記事へ
本記事は、すでに手順書を作ったことがある方が、それを「わかりやすくする」ための工夫 を扱います。「そもそも何を書けばいいのか」「どんな手順で作るのか」という作り方の基本は、姉妹記事 ▶ 作業手順書の作り方 にまとめています。
そちらでは、手順書に必ず入れる 7 項目や、作る 5 ステップを解説しています。まだ 1 枚も作ったことがない方は、先にそちらを読んでから本記事に戻ってくると、コツがすっと入ってきます。
手順書の先にある「標準作業」
もう一つ、混同しやすい言葉に「標準作業」があります。作業手順書が「1 つの作業をどうやるか」を書いたものなのに対して、標準作業は「工程全体でムダなく最も良いやり方をどう決めるか」という、もっと大きな考え方です。
本記事は 1 枚の手順書をわかりやすくする話に絞ります。その先の標準作業 (トヨタ式の 3 票) については、別記事 ▶ 標準作業とは (トヨタ式3票) で詳しく解説しています。
わかりにくい手順書が生まれる 5 つの理由 ── まず「なぜ伝わらないか」
わかりやすくするコツに入る前に、なぜ手順書はわかりにくくなるのか を押さえておきます。理由が分かれば、そのまま裏返してコツにできるからです。私が現場で見てきた「わかりにくい手順書」には、決まって次の 5 つの理由がありました。そして、この 5 つの理由を裏返したものが、次の章で解説する「わかりやすさの 6 原則」になります。その関係を、まず 1 枚の図で見ておきましょう。
理由1 ── 書き手が「全部知っている」から
いちばん根っこにある理由がこれです。手順書を書く人は、その作業に詳しいベテランであることが多いです。ですが、詳しすぎる人ほど、初めての人が何でつまずくかが見えなくなります。
自分にとって当たり前の手順は、つい省いてしまいます。「ここは説明しなくても分かるだろう」と飛ばした所が、実は初めての人にとって一番の関門だった、ということはよくあります。わかりにくさの多くは、書き手と読み手の「知っている量」の差から生まれます。
理由2 ── 動作を詰め込みすぎる
「部品を取って向きを合わせて差し込んで締める」── このように、1 行にいくつもの動作を詰め込むと、読み手はどこで区切って動けばいいのか分からなくなります。頭の中では一連の動きでも、紙の上では動作を分けないと伝わりません。
理由3 ── 曖昧な言葉で書く
「ていねいに」「しっかり」「適切に」── こうした言葉は、書いた本人は分かっていても、読み手には具体的に何をすればいいか伝わりません。「しっかり締める」が、ある人には手で、ある人には工具で、となれば、当然やり方はバラバラになります。曖昧な言葉は、解釈のばらつきを生みます。
理由4 ── 文字だけで、見えないものを見せていない
「部品の左奥のツメに合わせる」と文字で書かれても、その場所がどこか、初めての人にはなかなか浮かびません。位置・向き・見えない中身は、文字より写真や図の方が一発で伝わります。文字だけの手順書は、この「見せる」工夫が抜けていることが多いです。
理由5 ── 読む人・読む場面を想定していない
同じ作業でも、初めてやる人と、久しぶりにやる人では、必要な情報が違います。ところが多くの手順書は「誰がいつ読むか」を考えず、1 種類の書き方で全部済ませようとします。その結果、初心者には言葉が足りず、慣れた人には情報が多すぎる、どっちつかずの 1 枚になってしまいます。この「読む人・場面」の視点は、後ほど 3H として詳しく解説します。
この 5 つの理由を裏返したものが、次に解説するわかりやすさの原則です。
わかりやすさの 6 原則 ── これを押さえれば伝わる
わかりにくくなる理由を裏返すと、そのままわかりやすくするコツになります。ここでは、私が現場で必ず確認している 6 つの原則 を整理します。細かいテクニックの前に、この 6 原則を土台として押さえてください。
6 原則の早見
わかりやすい手順書に共通する原則は、次の 6 つです。
| # | 原則 | ひとことで言うと |
|---|---|---|
| ① | 1手順1動作 | 1 行に動作を詰め込まない |
| ② | 具体語で書く | 「ていねいに」を数字・向き・位置に置き換える |
| ③ | 写真・図で見せる | 言葉で難しい所を絵にする |
| ④ | 急所と理由を書く | コツと「なぜそうするか」をセットで |
| ⑤ | 3H を意識する | 誰がいつ読むかで書き分ける |
| ⑥ | 色・番号・レイアウト | 目線が迷わないように整える |
このうち ④ 急所、⑤ 3H、⑥ レイアウトは特に効果が大きいので、後の章で 1 つずつ深掘りします。まずは ① と ② を見ていきます。
① 1手順1動作 ── 「AしてBする」を分ける
1手順1動作とは、1 つの手順 (1 行) には動作を 1 つだけ書く という原則です。「部品を取って差し込む」なら、「① 部品を取る」「② 部品を差し込む」と 2 行に分けます。
分けると何が良いかというと、読み手が「今どこをやっているか」を見失わなくなることです。1 行に動作が 2 つ 3 つ入っていると、片方をやり忘れたり、順番を取り違えたりします。手を動かしながら目で追える単位、それが「1手順1動作」です。
② 具体語で書く ── 数字・向き・位置に置き換える
具体語で書くとは、曖昧な言葉を、数字・向き・位置などの具体的な表現に置き換える ことです。手順書でいちばん効くコツと言ってもいいです。
たとえば、次のように置き換えます。
- 「しっかり締める」 → 「規定トルク ○○N・m で締める」
- 「ていねいに拭く」 → 「上から下へ、2 回拭く」
- 「まっすぐ差し込む」 → 「マークの向きを上にして、垂直に差し込む」
置き換えのコツは、「どのくらい?」「どの向き?」「どこ?」と自分に問いかける ことです。曖昧語を見つけたら、この 3 つの問いで具体語にほぐしていきます。数値で言えるものは数値に、言えないものは「〜になるまで」と状態で書くと伝わります。
③ 写真・図で見せる ── 言葉で難しい所を絵にする
写真・図で見せるとは、文字で説明しにくい位置・向き・見た目を、写真や図で示す ことです。詳しい使い方は後ほど「写真・図・イラストの使い方」の章で解説しますが、原則としてここで押さえておきます。
言葉を尽くすより、写真 1 枚の方が早いことは多いです。ただし「全部に写真を付ける」のは逆効果になります。ここぞという所に絞る、という考え方が大事です。
④ 急所と理由を書く ── 手順書の心臓部
急所と理由を書くとは、その手順をうまくやるコツと、なぜそうするかの理由をセットで書く ことです。これは手順書の心臓部で、あるかないかで価値が大きく変わります。
急所は本記事のいちばん大事なテーマなので、次の章でまるごと解説します。ここでは「動作を並べるだけでは、わかりやすくならない」ことだけ押さえてください。
⑤ 3H を意識する ── 誰がいつ読むかで書き分ける
3H を意識するとは、「初めて・変更・久しぶり」という 3 つの場面を想定して書き分ける ことです。同じ作業でも、初めての人と久しぶりの人では必要な情報が違います。
この視点は現場のミスや事故を減らすうえでとても重要なので、あとの「3H を意識する」の章で詳しく解説します。
⑥ 色・番号・レイアウトで整える
色・番号・レイアウトで整えるとは、読み手の目線が迷わないように、見た目を整理する ことです。番号で順番を示し、色は意味を持たせて絞って使い、目線の流れに沿って配置します。
こちらも効果が大きいので、「色・番号・レイアウトで見やすくする」の章で具体的に解説します。
急所 (コツ・理由・勘所) の書き方 ── 手順書の心臓部
ここが本記事のいちばん大事な章です。作業手順書がただの「動作の羅列」で終わるか、「その通りにやれば誰でもできる 1 枚」になるかは、急所を書けているか で決まります。
急所とは ── コツ・理由・勘所の3点セット
急所とは、その手順を「うまく・確実に・楽に」やるための勘どころ のことです。わかりやすい手順書では、この急所を次の 3 点セットで書きます。
- コツ ── どうやるか (具体的なやり方)
- 理由 ── なぜそうするか / 外すとどうなるか
- 勘所 ── 良し悪しの見分け方 (五感での判断)
たとえば「ボルトを締める」という手順なら、次のようになります。
- コツ: 「対角の順で、2 回に分けて締める」
- 理由: 「片側から一気に締めると部品がゆがみ、密着不良になるから」
- 勘所: 「締め切ると『カチッ』と手応えが変わる。その手応えが基準」
このように、コツ・理由・勘所をそろえると、作業者は納得して、しかも自分で良し悪しを判断しながら作業できるようになります。
コツの書き方 ── 「どうやるか」を具体語で
コツとは、うまくやるための具体的なやり方 です。書くときは、前述の「具体語で書く」原則をそのまま使います。
「うまく差し込む」ではなく「マークを上にして垂直に差し込む」、「軽く締める」ではなく「指で回して止まるまで」というように、どうやるかを、迷いようのない言葉で書きます。ここが曖昧だと、せっかく急所を書いても人によって解釈が変わってしまいます。
理由の書き方 ── 「なぜそうするか / 外すとどうなるか」
理由とは、なぜそのコツが必要なのか、外すと何が起きるのか です。急所の中でも、私がいちばん大事だと考えているのがこの理由です。
理由があると、作業者が納得して守れます。人は「そういう決まりだから」より「こうしないと不良になるから」の方が、はるかに守ります。さらに、理由が分かっていれば、少し状況が変わっても応用が利きます。理由は「守らせる力」と「応用する力」の両方を生みます。
書くときは、「〜だから」「〜すると〜になる」の形で 1 行添えるだけで十分です。「対角に締めるのは、部品のゆがみを防ぐため」といった一言が、手順書の価値を大きく上げます。
勘所の書き方 ── 「良し悪しの見分け方」を言葉にする
勘所とは、うまくいっているかどうかを、その場で見分ける判断のポイント です。ベテランが五感で判断している所を言葉にします。
- 目で: 「すき間が見えなくなったらOK」
- 手で: 「手応えが急に重くなったら止める」
- 音で: 「『カチッ』と音が変わったら締め切り」
こうした五感の判断は、ベテランの頭の中にあって、本人も意識していないことが多いです。ここを引き出して言葉にできると、初めての人でも「今のは良かった/まだ足りない」を自分で判断できるようになります。勘所は、手順書を「見て真似る」から「自分で判断できる」へ引き上げるカギです。
急所は「目立たせて」書く
急所は、ふつうの手順文と同じ調子で書くと埋もれてしまいます。マークや色を使って、ひと目で「ここが急所」と分かるようにします。
- 急所には「★急所」「⚠注意」などのマークを付ける
- 急所の行だけ色や太字で目立たせる
- 写真を付けるなら、急所の所に優先して付ける
こうしておくと、忙しい現場でも「まず急所だけは見る」という読み方ができます。全部を同じ濃さで書くのではなく、急所にメリハリを付けるのがコツです。
急所の引き出し方 ── 失敗の側から聞く・動画で振り返る
急所を書く一番の難しさは、そもそも ベテランがコツを言葉にできない ことにあります。「昔からこうやっている」で終わってしまいがちです。そんなときの引き出し方が 2 つあります。
- 失敗の側から聞く: 「これを逆にやったらどうなりますか?」「これを飛ばすと何が起きますか?」と、失敗の結果を尋ねると、コツと理由が出てきやすくなります
- 動画で振り返る: 作業を動画で撮り、一緒に見返しながら「今、何を見て判断しましたか?」と一場面ずつ聞くと、無意識の勘所が言葉になります
観察と対話をセットにするのが、急所を引き出すコツです。
3H (初めて・変更・久しぶり) を意識する ── 誰がいつ読むか
わかりやすさを一段引き上げるのが、この 3H の視点です。同じ作業でも、読む人・読む場面によって、必要な情報は変わります。ここを意識すると、手順書はぐっと現場に合ってきます。
3H とは ── ミス・災害が起きやすい 3 つの場面
3H とは、現場でミスや事故が起きやすい 3 つの場面の頭文字をとった言い方です。
- 初めて (はじめて) ── その作業を初めてやるとき
- 変更 (へんこう) ── やり方・材料・設備が変わったとき
- 久しぶり (ひさしぶり) ── しばらくやっていなかった作業をやるとき
この 3 つの場面は、慣れた定常作業に比べてミスや災害が起きやすいことが、現場では昔から知られています。手順書は、この 3 つの場面をこそ助けるために書く と考えると、書き方が変わってきます。
初めて (初作業) 向け ── 前提・用語・写真を厚く
初めての人に向けては、前提の知識・用語の説明・写真を厚めに します。ベテランなら省いても伝わる所を、初めての人はつまずきます。
- 使う道具や部品の名前に、写真か図を添える
- 「なぜこの作業をやるのか」という目的から書く
- 迷いやすい向き・位置は必ず絵で示す
初めての人が 1 人でも進められる、を目安にすると、ちょうど良い親切さになります。
変更 (変化点) 向け ── 「どこが変わったか」を目立たせる
やり方や材料、設備が変わったときは、「どこが、どう変わったか」を目立たせる のが急所です。人は変化の前のやり方に戻りやすいので、変わった所を見落とすとミスにつながります。
- 変わった所に「★変更点」のマークや色を付ける
- 「旧: ○○ → 新: ○○」と、変更前後を並べて書く
- 変更の理由も一言添える (納得すると戻りにくくなる)
変更点を目立たせておくと、「前と同じつもりでやってミスした」を防げます。
久しぶり (非定常・久々作業) 向け ── 思い出せる要点・注意
たまにしかやらない作業や、久しぶりの作業に向けては、思い出すための要点と、忘れやすい注意点 を押さえます。毎日やる作業と違い、記憶があいまいになっているからです。
- 全体の流れが一目で分かる要点 (手順の見出しだけの一覧) を付ける
- 「久しぶりだと忘れやすい」注意点を目立たせる
- 前回いつやったか、どこでつまずいたかのメモ欄があると便利
久々の作業ほど、細部より「大事な急所と危ない所」を思い出せることが大切です。
1 枚で全部やらず、場面で使い分ける
3H を全部 1 枚に詰め込もうとすると、かえって情報過多でわかりにくくなります。基本は 1 枚に急所をしっかり書き、初めての人向けの詳しい説明は別紙や写真集にする、といった使い分けもありです。
大事なのは「誰がいつ読むか」を意識して書くことです。読む相手を思い浮かべるだけでも、手順書のわかりやすさは大きく変わります。
写真・図・イラストの使い方 ── 文字で難しい所を絵にする
わかりやすさを一気に上げるのが、写真・図・イラストです。ただし、使い方を間違えると逆効果にもなります。ここでは、効かせる使い方を整理します。
写真は「急所」と「間違えやすい所」に絞る
写真は、すべての手順に付ける必要はありません。急所や、間違えやすい所に絞って付けるのがコツです。全部の手順に写真を付けると、どこが大事か分からなくなり、かえって読まれなくなります。「ここだけは見てほしい」という所に絞ると、写真が効いてきます。
良い写真の撮り方 ── 寄る・矢印・OK/NG を並べる
伝わる写真には、ちょっとしたコツがあります。
- 寄る: 見せたい所に近づいて撮る。全体写真は場所が分かりにくい
- 矢印・囲みを入れる: 「ここ」という所に矢印や丸を付けると一発で伝わる
- OK と NG を並べる: 「良い状態」と「悪い状態」を並べて撮ると、判断基準が伝わる
とくに、OK と NG を並べる撮り方は、勘所 (良し悪しの見分け方) を見せるのにとても効きます。
図・イラストで「位置・向き・見えない中身」を示す
写真で撮りにくいものは、図やイラストで示します。とくに、次の 3 つは図の出番です。
- 位置: 「どこに」を、全体図の中で指し示す
- 向き: 部品の向き・回す方向などを、矢印付きの図で示す
- 見えない中身: 組み付けた後は見えなくなる内部を、断面図やイラストで示す
手書きの簡単な図でも十分に役立ちます。きれいさより「伝わるか」を優先してください。
撮りすぎ・貼りすぎに注意
写真や図は強力ですが、多すぎると逆効果 です。1 枚の手順書が写真だらけになると、どれが大事か分からず、印刷もしにくくなります。急所に絞る、という原則をここでも守ってください。「文字だけにしない」と「写真だらけにしない」の、ちょうど中間を狙います。
色・番号・レイアウトで見やすくする ── 目線が迷わない1枚に
中身が良くても、レイアウトが雑だと読まれません。現場では立ったまま、短時間で手順書を見る ことが多いです。目線が迷わない見た目に整えることも、わかりやすさの一部です。
番号で順番を迷わせない
作業手順には、必ず番号を振ります。番号があると、「今どこをやっているか」を見失いません。1 手順に 1 番号を対応させ、写真も同じ番号に紐づけると、文と写真が迷わずつながります。「①〜⑤の順にやる」と決まっているだけで、読み手の負担はぐっと減ります。
色は「意味」で使う ── 数色に絞る
色は、意味を決めて、数色に絞って使う のがコツです。カラフルにすればわかりやすくなる、というのは誤解です。色が多すぎると、どれが大事か分からなくなります。
- 赤 = 安全にかかわる危険・禁止
- 黄 = 急所・注意
- 黒 (または青) = ふつうの手順
このように「色に意味を持たせて、2〜3 色に絞る」と、ひと目で重要度が伝わります。会社で色のルールを決めておくと、どの手順書を見ても同じ感覚で読めるようになります。
レイアウトは目線の流れに沿わせる
人の目線は、基本的に 左から右へ、上から下へ 流れます。手順書も、この流れに沿って配置すると自然に読めます。手順の番号は上から下へ順に、写真は対応する手順の右か下に、というように、目線が行ったり来たりしない配置を意識します。
1 枚 1 作業・文字は大きめに
レイアウトの最後のコツは、1 枚に 1 作業まで、そして 文字は大きめに です。1 枚にあれもこれも詰め込むと、情報過多でわかりにくくなります。また、現場は明るさや距離の条件が良くないことも多いので、文字は少し大きめにし、余白をとって見やすくします。詰め込むより、余白がある方が読まれます。
動画を使う手もある ── 動きは動画が得意
ここまでは紙 (文書) の手順書を前提に解説してきました。ですが、「動き」や「速さ」「力加減」といった、紙では伝えにくいもの もあります。そういうときは、動画を使う手があります。
紙で難しいのは「動き・速さ・力加減」
たとえば「手首をひねりながら引き抜く」「一定のリズムで送る」といった連続した動きは、写真や文章では伝えきれません。こうした 動き・速さ・力加減 は、動画のいちばん得意なところです。紙の手順書で急所を押さえたうえで、動きの部分だけ動画で補う、という使い分けが効果的です。
動画マニュアルの作り方・運用は別記事へ
動画マニュアルの作り方や、現場での運用の仕方 (どこを動画にするか、どう見せるか、更新の回し方など) は、話が広がるので別記事にまとめています。
- 詳しくは → ▶ 動画マニュアルの作り方 (動画をどう使い、どう運用するか)
本記事で押さえてほしいのは、「紙で難しい動きは、動画で補える」という選択肢があることです。まずは紙の手順書を、この記事のコツでわかりやすくする。そのうえで、動きが要になる作業だけ動画を足す、という順番がおすすめです。
わかりにくい手順書 ✕ わかりやすい手順書 ── NG例とOK例
最後に、ここまでのコツを 1 つの例で比べてみます。同じ「ボルトを締める」という手順を、わかりにくい書き方と、わかりやすい書き方で並べます。まずは両者の違いを 1 枚で見てみましょう。
NG例 ── 曖昧語・動作詰め込み・急所なし
【NG】ボルトの締め付け
ボルトをしっかり締める。ゆがまないように気をつけてていねいに行うこと。
この書き方の問題は、次の通りです。
- 「しっかり」「ていねいに」が曖昧で、人によって解釈が変わる
- 「気をつけて」だけで、どう気をつけるかが書いていない
- 締める順番 (コツ) も、なぜゆがむのか (理由) も書いていない
- 写真がなく、どこを締めるのか分からない
これでは、書いた人にしか同じようにできません。
OK例 ── 具体語・1手順1動作・急所と理由
【OK】ボルトの締め付け (4本)
① 4 本のボルトを、指で回して止まるまで仮締めする。
② ★急所: 対角の順 (左上→右下→右上→左下) で、規定トルクの半分まで締める。
③ ★急所: 同じ対角の順で、規定トルクまで締める。
└ 理由: 片側から一気に締めると部品がゆがみ、密着不良になるため。
└ 勘所: 締め切ると手応えが急に重くなる。そこで止める。
〔写真①: 締める順番の図 / 写真②: 良い密着とすき間ありの比較〕
OK例では、次のように変わっています。
- 「しっかり」→「規定トルクまで」と具体語になった
- 1 手順 1 動作に分け、番号を振った
- 急所 (コツ)・理由・勘所がそろっている
- 急所にマークを付け、写真で位置と良し悪しを見せている
同じ作業でも、これだけ「その通りにできる」度合いが変わります。
直すのは全部でなく「急所の 1〜2 行」から
「今ある手順書を全部 OK 例のように書き直すのは大変だ」と感じたかもしれません。ですが、いきなり全部を直す必要はありません。まずは、いちばん間違えやすい急所の 1〜2 行に、理由と勘所を足す だけで、手順書は見違えます。全部を完璧にするより、効く所から少しずつ直していくのがコツです。
わかりやすさを保つ ── 作って終わりにしない
わかりやすい手順書を作れても、放っておくとわかりにくくなっていきます。最後に、わかりやすさを保つ考え方を押さえます。
わかりにくい所は、現場が教えてくれる
手順書を配ると、現場から「ここの意味が分からない」「この写真では位置が分からない」といった声が出ます。これは、わかりにくい所を教えてくれる貴重なヒント です。質問が出たら、それを面倒がらずに手順書に反映していきます。現場の質問こそ、わかりやすさを上げるいちばんの材料です。
変わったら直す ── 古い手順書は見られなくなる
やり方や設備、材料が変わったら、手順書も直します。古いままの手順書は、「どうせ合っていない」と思われ、見られなくなります。一度信用を失うと、いくらわかりやすく書いても読まれません。変化があったらすぐ直す、を習慣にすることが、わかりやすさを保つ土台です。
わかりやすさの維持は、改善の土台になる
手順書をわかりやすく保ち続けることは、改善そのものの土台でもあります。今のやり方が誰にでも分かる形で決まっているからこそ、「そこからどう良くするか」を積み上げられる からです。わかりやすい手順書は、改善のスタートラインです。改善活動全体の進め方は ▶ 改善の進め方 完全ガイド にまとめています。
よくある質問 Q&A
Q1: 写真はどのくらい入れればいいですか?
急所と、間違えやすい所に絞って 入れるのが基本です。すべての手順に写真を付けると、どこが大事か分からなくなり、かえって読まれなくなります。「ここだけは見てほしい」という所に絞ると、写真が効いてきます。目安は「その手順を初めてやる人が、写真なしで迷う所」に付けることです。
Q2: 文章は長くて詳しい方が親切ではないですか?
いいえ、詳しすぎる手順書は読まれません。まじめな人ほど全部書こうとしますが、情報を詰め込むほど、どこが大事か埋もれてしまいます。主なステップに絞り、急所に力を入れる、というメリハリが、結果としていちばん親切です。「短く、具体的に」を意識してください。
Q3: 急所と、ふつうの注意点はどう違いますか?
急所は「うまくやるためのコツと理由」、注意点は「外してはいけない一線」 です。急所は「対角に締めるとゆがまない」のように、うまくやる勘どころ。注意点は「この寸法を外すと不良」のように、守るべき基準です。両方あると手順書は強くなりますが、まず力を入れるべきは急所です。急所の書き方は本記事の「急所 (コツ・理由・勘所) の書き方」で詳しく解説しています。
Q4: 3H は 1 枚の手順書にどう反映すればいいですか?
基本の 1 枚に急所をしっかり書いたうえで、場面に応じて情報を足す のがコツです。たとえば、初めての人向けには写真や用語説明を別紙で補う、変更があったときは「★変更点」を目立たせる、久しぶりの人向けには要点の一覧を付ける、といった具合です。全部を 1 枚に詰め込むと逆効果なので、使い分けを意識してください。
Q5: 手順書より、動画にした方が早いのではないですか?
動き・速さ・力加減は動画が得意 です。一方、急所や理由、判断基準は、紙の方がパッと確認できて便利なことも多いです。おすすめは、紙の手順書で急所を押さえたうえで、動きが要になる所だけ動画で補う使い分けです。動画マニュアルの作り方・運用は ▶ 動画マニュアルの作り方 で解説しています。
Q6: わかりやすくする時間がありません。最初の一歩は何ですか?
いちばん間違えやすい手順の 1〜2 行に、急所 (理由と勘所) を足す ことから始めてください。全部を書き直す必要はありません。「ここでよく失敗する」という所に、なぜそうするか・どう見分けるかを一言足すだけで、手順書は見違えます。効く所から少しずつ、が挫折しないコツです。
まとめ
本記事で押さえてほしい 3 行サマリーは以下の通りです。
- わかりやすい手順書とは、読んで分かるだけでなく 「その通りにやれば誰でも同じにできる」1 枚
- コツは 6 原則 (1手順1動作・具体語・写真図・急所と理由・3H・レイアウト)。中でも 急所 (コツ・理由・勘所) が心臓部
- 3H (初めて・変更・久しぶり) を意識 し、現場の質問で直し続けることで、わかりやすさは保たれる
わかりやすい作業手順書のコツについて解説しました。大事なのは、動作をただ並べるのではなく、急所を書き、読む相手を思い浮かべ、現場の声で直し続ける ことです。最初から完璧な 1 枚を目指す必要はありません。いちばん間違えやすい所の急所を一言足す、そこから始めれば十分です。コツコツと積み上げて、現場で本当に使われる手順書にしていきましょう。
関連記事
- 姉妹記事 ▶ 作業手順書の作り方 (型・入れる項目・作る 5 ステップ)
- まとめ記事 ▶ 作業手順書・標準作業の作り方 完全ガイド (作業手順書〜標準作業の全体像)
- ▶ 標準作業とは (トヨタ式3票) (手順書の先にある発展)
- ▶ 動画マニュアルの作り方 (動きは動画で補う)
- まとめ記事 ▶ 改善の進め方 完全ガイド (わかりやすさの維持は改善の土台)
個別相談
現場に合ったわかりやすい手順書づくりや標準化の進め方で迷ったら、▶ あすなろ経営研究所 で個別相談を承っています。中小企業診断士として、自動車工場での改善経験をもとに、現場で本当に使われる手順書づくりからお手伝いしています。
外部の公的情報源
- 中小企業ビジネス支援サイト J-Net21: https://j-net21.smrj.go.jp/
- 中小企業庁: https://www.chusho.meti.go.jp/
- 厚生労働省 職場のあんぜんサイト: https://anzeninfo.mhlw.go.jp/
- 中央職業能力開発協会 (JAVADA): https://www.javada.or.jp/
