最終更新: 2026-07-13
💬 うちの製品、結局いくらで作れているのか、正直よく分かっていない、、、。
💬 「原価計算」って言葉は聞くけど、何から手を付ければいいのか分からないんだよなぁ、、、。
💬 だいたいの勘で値付けしてきたけど、本当にこれで利益が出ているのか不安、、、。
そんな『原価計算の基礎』についての悩みにお答えします。
- 1 なぜ原価を把握するのか ── 「作ればいくらか」が分からないと経営が回らない
- 2 製造原価の 3 要素 ── 材料費・労務費・経費
- 3 直接費と間接費 ── 「製品にひもづけられるか」で分ける
- 4 固定費と変動費 ── 「生産量で増減するか」で分ける
- 5 製造原価の計算の流れ ── 費目別 → 部門別 → 製品別
- 6 個別原価計算と総合原価計算 ── 作り方で計算方法が変わる
- 7 中小製造業の簡易な原価把握の始め方 ── 完璧を目指さず「まず全体をつかむ」
- 8 「どんぶり勘定」の危険 ── なんとなくの値付けが利益を削る
- 9 原価を「下げる」につなげる ── 基礎の次は原価低減へ
- 10 よくある質問 Q&A
- 11 まとめ
☑ 記事の内容
- そもそも なぜ原価を把握するのか (値付け・利益・改善の土台になる)
- 製造原価の 3 要素 (材料費・労務費・経費) と、2 つの切り口 (直接費/間接費・固定費/変動費)
- 原価計算の 流れ (費目別 → 部門別 → 製品別) と、個別原価計算・総合原価計算 の違い
- 中小製造業の簡易な原価把握の始め方 と、「どんぶり勘定」の危険
- 原価を「下げる」につなげる話 / Q&A
わたしは自動車メーカーの工場で改善活動の指導を 10 年以上行ってきました。実績を金額に換算すると 1 億円以上の改善を行ってきた、いわゆる改善のプロです。今は中小企業診断士として、中小製造業の現場改善や原価管理のお手伝いをしています。その中で、「作ってはいるけれど、いくらで作れているかは分からない」という現場に、本当に数多く出会ってきました。原価は、むずかしい理論から入ると挫折します。ですが、基本の考え方 (何で成り立っていて、どう計算するか) さえつかめば、中小の現場でも「まず全体をつかむ」ことは十分にできます。本記事では、わたしがふだん現場で使っている原価の見方を、そのまま順番に整理していきます。
そんなわたしが解説していきます。
本記事は 原価計算の「基礎」だけ を、はじめての方に向けてやさしくまとめた内容です。原価だけでなく、生産計画・在庫・工程管理まで含めた全体像から知りたい方は、まずまとめ記事 ▶ 中小製造業の生産管理・原価管理 完全ガイド を読んでください。また、「現場で必要なお金の話」を現場目線でざっくり知りたい方は、先に ▶ 現場で必要なお金の話① も読むと、この記事が頭に入りやすくなります。
なぜ原価を把握するのか ── 「作ればいくらか」が分からないと経営が回らない
まず、なぜ原価を知る必要があるのか、というところから始めます。「毎日ちゃんと作れているし、注文もある。原価なんて細かく出さなくても回っている」── そう感じる方もいるかもしれません。ですが、原価が分からないままだと、じわじわと経営の土台が崩れていきます。
原価とは ── 「その製品を作るのにかかった費用」のこと
原価とは、ある製品を作るのに、いくらかかったかを表した費用 のことです。材料を買うお金、作る人の人件費、工場を動かすお金など、その製品を世に出すまでにかかったコストの合計だと考えてください。
言葉としてはシンプルですが、いざ「この製品 1 個の原価はいくら?」と聞かれると、すぐに答えられない現場は多いです。原価計算とは、この「1 個いくらか」を、根拠をもって出せるようにする作業だと考えると分かりやすいです。
原価が分かると何が変わるか ── 4 つのメリット
原価をきちんと把握できると、経営で使える武器が一気に増えます。主なものは次の 4 つです。
- 正しい値付けができる ── 原価が分かって、はじめて「いくらで売れば利益が出るか」を根拠をもって決められます
- 利益が出ているか分かる ── 売上が立っていても、原価がそれを上回っていれば赤字です。原価を知らないと、それに気づけません
- どこにムダがあるか見える ── 何にお金がかかっているかが分かると、「ここが重い」という改善の的が絞れます
- 改善の効果が数字で測れる ── 原価という物差しがあると、「改善して、いくら良くなったか」を数字で示せます
つまり原価は、値付け・利益管理・改善という、経営の主要な判断すべての土台になります。
「売価 − 原価 = 利益」という基本の式
原価の大切さは、次の 1 本の式で説明できます。
- 売価 − 原価 = 利益
とてもシンプルな式ですが、ここに落とし穴があります。原価が曖昧だと、利益も曖昧になる のです。売価は請求書に載るので分かります。ですが原価が「なんとなく」だと、手元に残る利益も「なんとなく」になってしまいます。
だからこそ、まず原価をしっかりつかむことが、利益を守る第一歩になります。なお、この記事では具体的な金額の例は挙げません。金額は業種・製品・地域によってまったく違うからです。大事なのは「いくらか」という数字そのものより、原価がどんな費用で成り立っていて、どう計算するか という考え方です。ここを本記事で押さえていきましょう。
製造原価の 3 要素 ── 材料費・労務費・経費
ここからが本題です。製造原価は、大きく 3 つの費用 (3 要素) に分けられます。この 3 つに分けて考えるのが、原価計算のいちばんの基本です。まずは下の図で、3 要素と 2 つの切り口 (直接費/間接費・固定費/変動費) の全体像をつかんでください。
製造原価は 3 つに分けられる (早見)
製造原価を構成する 3 要素は、次の通りです。
| # | 要素 | ざっくり言うと | 主な中身の例 |
|---|---|---|---|
| ① | 材料費 | モノにかかる費用 | 主要材料・部品・補助材料など |
| ② | 労務費 | 人にかかる費用 | 製造にたずさわる人の賃金・手当など |
| ③ | 経費 | 材料費・労務費以外の費用 | 電力・減価償却・外注加工・修繕など |
「材料 (モノ)」「人」「その他」の 3 つ、と覚えると分かりやすいです。順に見ていきます。
材料費 ── 製品の材料・部品にかかる費用
材料費とは、製品を作るために使う「モノ」にかかる費用 のことです。素材となる主要材料、組み込む部品、それに補助的に使う材料 (接着剤・塗料など) も含みます。
材料費は、製品にそのまま姿を残すことが多いので、比較的つかみやすい費用です。「この製品に、この材料をこれだけ使った」と数量でたどりやすいからです。原価をつかむ最初の一歩として、まず材料費から手を付けると取りかかりやすいです。
労務費 ── 製品を作る人にかかる費用
労務費とは、製品を作る人にかかる費用 のことです。製造現場で働く人の賃金や手当などがこれにあたります。
労務費で気をつけたいのは、「その人が、その製品にどれだけ時間をかけたか」で考える必要がある点です。1 人がいろいろな製品を作っている場合、その人の費用を製品ごとに分ける、という発想が出てきます。ここは後で出てくる「直接費と間接費」の話につながります。なお、具体的な金額は現場ごとに大きく違うので、本記事では金額そのものではなく「人にかかる費用というくくり」として押さえておいてください。
経費 ── 材料費・労務費以外にかかる費用
経費とは、材料費でも労務費でもない、製造にかかるその他すべての費用 のことです。たとえば次のようなものがあります。
- 工場の電気代・水道代・ガス代などの光熱費
- 機械や設備の減価償却費 (設備の価値を年数で分けて費用にしたもの)
- 外注加工費 (社外に加工を頼んだときの費用)
- 修繕費・消耗品費 など
経費は種類が多く、一見つかみにくい費用です。ですが「材料でも人件費でもない、けれど製造に必要なお金」とまとめて考えると整理しやすくなります。
「製造原価」と「総原価」の違い
もう一つ、混同しやすい言葉を整理しておきます。ここまで見てきた 3 要素 (材料費・労務費・経費) の合計が 製造原価 です。作るためにかかった費用、という意味です。
これに対して、製造原価に 販売費 (売るためにかかる費用) と 一般管理費 (会社全体を維持する費用) を足したものを 総原価 と呼びます。ざっくり言うと、次の関係です。
- 製造原価 = 材料費 + 労務費 + 経費 (作るためにかかった費用)
- 総原価 = 製造原価 + 販売費 + 一般管理費 (売って会社を維持するまで含めた費用)
本記事の主役は「製造原価」です。まずは作るのにいくらかかるか、をつかむところに集中していきます。
直接費と間接費 ── 「製品にひもづけられるか」で分ける
3 要素が分かったら、次は「費用の見方 (切り口)」です。同じ製造原価を、別の角度から分けると、原価の中身がもっとよく見えてきます。1 つ目の切り口が、直接費と間接費 です。
これは、「どの製品にいくらかかったか、はっきりひもづけられるかどうか」 で分ける見方です。
直接費とは ── 直接ひもづけられる費用
直接費とは、「この製品に、いくらかかった」と、はっきりひもづけられる費用 のことです。
たとえば、ある製品に使った材料は、その製品のためだけに使ったものなので、直接ひもづけられます。特定の製品だけを作った人の労務費も同じです。「この製品のために、いくら使ったか」がたどれる費用は、すべて直接費です。
間接費とは ── 直接ひもづけられない費用
間接費とは、複数の製品に共通でかかっていて、「どの製品にいくら」と直接は分けられない費用 のことです。
分かりやすいのが、工場全体の電気代です。1 つのラインで何種類もの製品を作っている場合、その電気代を「この製品にいくら」と正確に切り分けるのは、まず不可能です。ほかにも、工場全体の管理にかかる費用、複数製品を掛け持ちで作る人の労務費などが間接費にあたります。
間接費は「配賦」で割り振る
では、直接ひもづけられない間接費は、どうやって製品ごとの原価に反映するのでしょうか。ここで出てくるのが 配賦 (はいふ) という考え方です。
配賦とは、間接費を、なんらかの基準を使って各製品に割り振ること です。たとえば「作業時間の割合で分ける」「使った機械の稼働時間で分ける」といった基準を決めて、間接費をその割合で振り分けます。
- 直接費 → 製品にそのまま乗せる
- 間接費 → 基準を決めて配賦 (割り振り) する
大事なのは、配賦には「唯一の正解」があるわけではない、という点です。どの基準で割り振るかは、その現場の実態に合わせて決めます。ここが原価計算のむずかしくも面白いところで、後で出てくる「まず大づかみでいい」という話にもつながります。
固定費と変動費 ── 「生産量で増減するか」で分ける
費用の切り口は、もう 1 つあります。固定費と変動費 です。これは直接費・間接費とはまったく別の見方で、「生産量が増えると、その費用も増えるかどうか」 で分けます。
変動費とは ── 生産量が増えると増える費用
変動費とは、作る量が増えると、それに比例して増える費用 のことです。
いちばん分かりやすいのが材料費です。製品を 2 倍作れば、使う材料もおおむね 2 倍になります。外注加工費なども、量に応じて増える変動費の代表です。「たくさん作れば、その分かかる」費用だと考えてください。
固定費とは ── 生産量に関係なくかかる費用
固定費とは、作る量に関係なく、一定してかかる費用 のことです。
たとえば工場の家賃は、たくさん作っても、あまり作らなくても、毎月ほぼ同じだけかかります。設備の減価償却費や、月給で働く人の労務費なども、生産量にかかわらずかかる固定費です。「作っても作らなくても出ていくお金」だと考えると分かりやすいです。
固定費・変動費が分かると何が見えるか
なぜ、固定費と変動費に分けるのでしょうか。それは、「何個作れば、赤字を脱するか」が見えてくる からです。この分かれ目を 損益分岐点 と呼びます。
考え方だけをやさしく言うと、こうなります。固定費は、作っても作らなくてもかかります。ですから、まず売上で固定費を回収しなければなりません。1 個売るごとに「売価 − その 1 個分の変動費」だけ手元に残り、それが積み上がって固定費を上回った瞬間から、黒字になります。
- 1 個あたりの貢献分 = 売価 − 1 個分の変動費
- この貢献分が積み上がって 固定費を超えたところが損益分岐点 (赤字を脱する点)
損益分岐点そのものの詳しい計算は、原価の基礎を超えるので本記事では深追いしません。ここでは「固定費と変動費を分けると、赤字を脱する量が見えてくる」という考え方だけ、しっかり押さえておいてください。
製造原価の計算の流れ ── 費目別 → 部門別 → 製品別
3 要素と 2 つの切り口が分かったら、次は「どんな順番で計算するか」です。製造原価の計算は、費目別 → 部門別 → 製品別 の 3 段階で進むのが基本の形です。まずは下の図で、全体の流れをつかんでください。
原価計算は 3 段階で進む (全体像)
製造原価を計算する流れは、次の 3 段階です。
- ① 費目別計算 ── 費用を材料費・労務費・経費に分けて集計する
- ② 部門別計算 ── 間接費を、製造部門・補助部門などに割り振る
- ③ 製品別計算 ── 最終的に、製品 1 つあたりの原価を出す
「まず費用の種類でまとめ、次に部門で整理し、最後に製品まで落とす」── だんだん細かくしていく流れだと考えると分かりやすいです。順に見ていきます。
① 費目別計算 ── 費用を種類で集計する
第 1 段階は、かかった費用を、材料費・労務費・経費という費目ごとに集計する ことです。3 要素で、まず仕分けるわけです。
この段階で、それぞれの費用を「直接費」と「間接費」にも分けておきます。直接費は製品にそのまま乗せられますが、間接費は次の段階で部門を経由して割り振っていくことになります。
② 部門別計算 ── 間接費を部門に割り振る
第 2 段階は、間接費を、製造部門や補助部門といった「部門」に割り振る ことです。工場をいくつかの部門に分け、それぞれの部門でいくら間接費がかかったかを整理します。
ただし、ここは正直に言うと、小さな工場では省略・簡略化してかまいません。部門がはっきり分かれていない現場で、無理に部門別に分けても、手間ばかりかかって効果が薄いことがあります。まずは費目別 → 製品別のシンプルな 2 段階から始めて、規模が大きくなってきたら部門別を足す、という進め方でも十分です。
③ 製品別計算 ── 製品 1 つあたりの原価を出す
第 3 段階は、最終的に、製品 1 つあたりの原価を出す ことです。直接費はそのまま製品に乗せ、間接費は配賦の基準に沿って各製品に割り当てて、合計します。
ここまで来て、ようやく「この製品 1 個は、いくらで作れているか」という答えが出ます。この製品別の原価こそ、値付けや利益の判断に直接使える、いちばん実用的な数字になります。
個別原価計算と総合原価計算 ── 作り方で計算方法が変わる
原価計算には、大きく 2 つのやり方があります。個別原価計算 と 総合原価計算 です。どちらを使うかは、「どんな作り方をしているか」 で決まります。自社がどちらに向いているかを見分けられるよう、違いを整理します。
個別原価計算とは ── 受注ごと・製品ごとに集計する
個別原価計算とは、1 つの注文・1 つの製品ごとに、かかった原価を個別に集計する方法 のことです。
たとえば、お客さまごとに仕様が違う製品を、受注を受けてから作る、という現場に向いています。オーダーメイドの機械部品、特注品、金型など、「1 つひとつが違うもの」を作る場合です。注文ごとに材料費・労務費・経費を積み上げて、その注文の原価を出します。多品種少量の現場に向いた方法です。
総合原価計算とは ── 総費用を生産量で割る
総合原価計算とは、一定期間にかかった総費用を、その期間に作った生産量で割って、1 個あたりの原価を出す方法 のことです。
同じ製品を大量に作り続ける現場に向いています。標準品を見込みで作り続けるような場合です。「今月かかった費用の合計 ÷ 今月作った個数」で 1 個あたりを出す、というイメージです。1 つひとつを追いかけるのではなく、まとめて平均で見る方法だと考えてください。大量生産・少品種の現場に向いた方法です。
自社はどちらか ── 作り方で見分ける
では、自社はどちらを使えばいいのでしょうか。見分け方はシンプルです。
- 1 つひとつ違うものを、注文を受けて作る → 個別原価計算が向いている
- 同じものを、まとまった量で作り続ける → 総合原価計算が向いている
もちろん、実際にはこの中間だったり、両方が混ざっていたりする現場もあります。その場合は、主力の作り方に合わせて選ぶか、製品群ごとに使い分けます。まずは「うちは、1 つひとつ違うのか、同じものを作り続けるのか」を考えるところから始めてください。
中小製造業の簡易な原価把握の始め方 ── 完璧を目指さず「まず全体をつかむ」
ここまで読んで、「なんだかむずかしそうだ」と感じたかもしれません。ですが、安心してください。中小の現場では、いきなり教科書通りの精緻な原価計算を目指す必要はありません。まず全体をつかむ、から始めれば十分です。
いきなり精緻にしない ── まず 3 要素の大づかみから
最初のコツは、細かい配賦や部門別計算にこだわらず、まず「材料費・労務費・経費」の 3 つで大づかみにつかむ ことです。
完璧な原価計算をいきなり目指すと、たいてい途中で挫折します。それよりも、まずは 3 要素でざっくり分けて、「うちは材料費が重いのか、人件費が重いのか」という傾向をつかむ方が、はるかに役に立ちます。精度は、あとから上げていけばいいのです。
会計データを原価の目線で組み替える
次のステップは、すでに手元にある会計のデータを、原価の目線で組み替える ことです。多くの中小企業は、会計ソフトで損益計算書を作っています。そこに載っている費用を、「製造にかかった分」という視点で仕分け直すのが出発点になります。
ゼロから新しく数字を集める必要はありません。今ある数字を、材料費・労務費・経費という原価の分け方に当てはめてみる。それだけでも、原価の姿がずいぶん見えてきます。試算表や損益計算書は、会計ソフトから自分で出せますから、まずはそこにある数字を眺めてみてください。
製品群・工程ごとにざっくり配分する
3 要素で全体がつかめたら、次は 製品群や工程ごとに、ざっくり配分してみる 段階です。
ここでも、完璧な配賦基準を求める必要はありません。「この製品群には、だいたい人手がこれくらいかかっている」「この工程が、電気を多く使っている」といった、大まかな肌感覚から始めてかまいません。まず傾向をつかむことが、正確な小数点を求めることよりずっと大事 です。おおよその配分でも、「どこにお金が集中しているか」は十分に見えてきます。
続けて精度を上げる ── 一度で完成させない
最後に大事なのは、原価計算は一度で完成させるものではない ということです。
最初は大づかみでかまいません。月ごとに繰り返しながら、「ここはもう少し細かく分けたい」という所を少しずつ精緻にしていきます。作業手順書づくりと同じで、原価計算も「作って、使って、直す」を回して育てていくものです。最初から満点を狙わず、まず 60 点で回し始めることが、続けるコツです。
「どんぶり勘定」の危険 ── なんとなくの値付けが利益を削る
原価を把握することの大切さは、逆に「把握しないと何が起きるか」を見ると、よく分かります。ここでは、原価をつかまない どんぶり勘定 の危険を整理します。
どんぶり勘定とは ── 全体を丼で大まかに管理する状態
どんぶり勘定とは、個々の製品の原価をつかまず、会社全体のお金を「丼 (どんぶり)」のように、まとめて大まかに管理している状態 のことです。
「全体で見れば黒字だから大丈夫」── これがどんぶり勘定の典型です。全体が黒字でも、その中に赤字の製品が混じっていることは、よくあります。全体でならしてしまうと、その赤字は見えません。
赤字受注に気づけない ── 「売れているのに儲からない」の正体
どんぶり勘定の一番こわいところは、赤字の受注に気づけない ことです。
製品ごとの原価が見えていないと、実は原価が売価を上回っている製品を、そうと知らずに作り続けてしまいます。「よく売れているのに、なぜか利益が残らない」── その正体は、たいてい、原価をつかんでいないことにあります。売れれば売れるほど赤字が膨らむ、という怖い状態にもなりかねません。
値上げ・値下げの判断ができない
原価が分からないと、価格の交渉ができません。
お客さまから値下げを求められたとき、原価を知らなければ「どこまでなら受けられるか」の線が引けません。逆に値上げをお願いするときも、「原価がこれだけかかっている」という根拠がなければ、説得力を持って交渉できません。原価は、価格を守るための盾でもあるのです。
改善の効果が測れない
もう 1 つ、原価が見えないと 改善の効果が測れません。
現場でムダを減らしたり、段取りを工夫したりしても、原価という物差しがなければ「それで、いくら良くなったのか」を数字で示せません。数字で示せない改善は、続きません。原価を見える化することは、改善を前に進める土台にもなります。改善活動そのものの進め方は ▶ 改善の進め方 完全ガイド にまとめています。
原価を「下げる」につなげる ── 基礎の次は原価低減へ
ここまでで、原価が「何で成り立っていて、どう計算するか」という基礎を押さえてきました。最後に、その次のステップについて触れておきます。
原価は「知る」で終わりではない
原価計算のゴールは、原価を出すことそのものではありません。見えた原価を、どう下げていくか ── ここからが本当の勝負です。
原価が見えるようになると、「材料のロスが多い」「この工程に時間がかかりすぎている」といった、改善の的が見えてきます。その的に向かって、ムダを減らし、原価を下げていく取り組みが、原価低減 (コストダウン) です。原価を「知る」は、原価を「下げる」の入口だと考えてください。
原価低減の進め方は別記事で
実際に原価を下げる進め方 (コストダウンの具体的なステップ) は、この基礎編の範囲を超えるため、本記事では扱いません。原価低減の進め方は、別記事「原価低減の進め方」で近日公開予定 です。公開したら、この記事からもご案内します。
また、原価低減は、現場改善そのものと切り離せません。ムダを減らす、段取りを短くする、不良を減らす── どれも原価を下げる取り組みです。改善活動の全体像は ▶ 改善の進め方 完全ガイド にまとめていますので、原価低減に進む前に読んでおくと、つながりが見えてきます。
まずは本記事 (基礎) で「原価の見方」を押さえ、次に原価低減へ進む── この順番で積み上げていきましょう。
よくある質問 Q&A
Q1: 原価計算と原価管理は何が違いますか?
原価計算は「原価をいくらか計算すること」、原価管理は「その原価を管理・改善していくこと」 です。原価計算で出した数字をもとに、目標と比べたり、下げる手を打ったりするのが原価管理です。まずは原価計算で「いくらか」をつかむのが出発点で、その先に原価管理があると考えてください。
Q2: 製造原価と総原価はどう違いますか?
製造原価は「作るのにかかった費用」(材料費 + 労務費 + 経費)、総原価は「それに販売費・一般管理費を足したもの」 です。作るコストだけを見るなら製造原価、売って会社を維持するまで含めて見るなら総原価を使います。本記事の主役は、作るコストである製造原価です。
Q3: うちは受注生産です。どの原価計算方法が向いていますか?
受注ごと・製品ごとに仕様が違うなら、個別原価計算が向いています。注文ごとに材料費・労務費・経費を積み上げて、その注文の原価を出す方法です。逆に、同じ製品を大量に作り続けるなら総合原価計算が向いています。詳しくは「個別原価計算と総合原価計算」の章で解説していますので、そちらも読んでみてください。
Q4: 間接費の配賦はどう決めればいいですか?
配賦の基準に「唯一の正解」はありません。その費用が、どの製品にどれだけ関係しているかを、いちばんよく表す基準を選ぶ のが原則です。たとえば人手が要因なら作業時間で、機械が要因なら機械の稼働時間で割り振ります。中小の現場では、まず大づかみな基準で始めて、必要に応じて細かくしていけば十分です。
Q5: 会計ソフトの数字をそのまま原価に使っていいですか?
会計ソフトの損益計算書は、原価を考える出発点として、とても役に立ちます。ただし、そのままでは「製造にかかった分」と「売る・管理にかかった分」が混ざっている ことが多いです。そこで、載っている費用を材料費・労務費・経費という原価の目線で仕分け直すのがコツです。ゼロから集める必要はなく、今ある数字を組み替えるところから始めてください。
Q6: 原価を下げたいのですが、何から始めればいいですか?
まずは本記事の内容で、自社の原価が何で成り立っているか (どこが重いか) をつかむ ことが先決です。重い費目が見えれば、そこが下げる的になります。実際の下げ方 (原価低減の進め方) は、別記事「原価低減の進め方」で近日公開予定です。あわせて、原価低減は改善活動の一部でもあるので、▶ 改善の進め方 完全ガイド も参考になります。
まとめ
本記事で押さえてほしい 3 行サマリーは以下の通りです。
- 原価は 「その製品を作るのにかかった費用」 で、把握できて初めて 値付け・利益・改善 の土台になる
- 製造原価は 3 要素 (材料費・労務費・経費) で成り立ち、直接費/間接費・固定費/変動費 という 2 つの切り口で見ると中身がよく分かる
- 計算は 費目別 → 部門別 → 製品別 の流れ。中小はまず大づかみから始め、どんぶり勘定を脱する ことが第一歩
原価計算の基礎について解説しました。大事なのは、いきなり完璧な計算を目指すのではなく、まず 3 要素で全体をつかみ、どこにお金が集中しているかを見える化する ことです。原価が見えれば、値付けにも、利益管理にも、改善にも使えます。最初は 60 点で構いません。コツコツと積み上げて、「うちの製品はいくらで作れているか」を、根拠をもって言える状態を目指していきましょう。そして次は、見えた原価を下げる「原価低減」へ進んでいきましょう。
関連記事
- まとめ記事 ▶ 中小製造業の生産管理・原価管理 完全ガイド (生産管理〜原価管理の全体像・目次)
- ▶ 生産管理とは (原価と対になる、生産管理の基礎)
- ▶ 現場で必要なお金の話① (現場目線のお金の話)
- まとめ記事 ▶ 改善の進め方 完全ガイド (原価低減は改善の一部)
- 原価低減の進め方 (近日公開 / 見えた原価を下げるコストダウンの進め方)
個別相談
自社の原価の見える化や、製造原価の把握・原価低減の進め方で迷ったら、▶ あすなろ経営研究所 で個別相談を承っています。中小企業診断士として、自動車工場での改善経験をもとに、現場のお金を数字で見える化するところからお手伝いしています。
外部の公的情報源
- 中小企業ビジネス支援サイト J-Net21: https://j-net21.smrj.go.jp/
- 中小企業庁: https://www.chusho.meti.go.jp/
- 中小企業向け補助金・総合支援サイト ミラサポplus: https://mirasapo-plus.go.jp/
- 独立行政法人 中小企業基盤整備機構 (中小機構): https://www.smrj.go.jp/
