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在庫管理(適正在庫・発注点)

最終更新: 2026-07-13

💬 在庫はできるだけ持ちたくないけど、減らしすぎると欠品して怒られる…どこがちょうど良いの、、、?

💬 「適正在庫」って言葉はよく聞くけど、うちの適正な量って結局いくつなんだろう、、、。

💬 発注はいつも担当者の勘まかせ。頼みすぎて余ったり、頼み忘れて足りなかったり、、、。

そんな『適正在庫と発注』についての悩みにお答えします。

目次

☑ 記事の内容

  1. 在庫の功罪 (持ちすぎの損・欠品の損) と、なぜ「適正在庫」を探すのか
  2. 適正在庫とは何か と、2つの発注方式 (発注点方式・定期発注方式)
  3. 安全在庫 の考え方 と、ABC分析 で管理にメリハリをつける方法
  4. 在庫回転率・回転日数 で在庫の動きを見る / 生産計画・原価とのつながり
  5. 中小製造業でつまずく点 と Q&A

わたしは自動車メーカーの工場で改善活動の指導を 10 年以上行ってきました。実績を金額に換算すると 1 億円以上の改善を行ってきた、いわゆる改善のプロです。今は中小企業診断士として、中小製造業の生産管理や原価管理のお手伝いをしています。その中で、倉庫にモノがあふれてお金が寝ている現場も、逆に欠品が続いてお客さまに謝ってばかりの現場も、数え切れないほど見てきました。在庫は、多すぎても少なすぎても損をする、扱いのむずかしいテーマです。ですが、「適正在庫」「発注点」「安全在庫」という3つの考え方 を順に押さえれば、勘まかせの発注から一歩抜け出せます。本記事では、わたしがふだん現場で説明している順番のまま、在庫の考え方を整理していきます。

そんなわたしが解説していきます。

本記事は 「ちょうど良い在庫の持ち方」と「いつ・どれだけ発注するか」を、実務目線で整理する ための記事です。在庫管理だけでなく、生産管理・原価管理まで含めた全体像から知りたい方は、まずまとめ記事の ▶ 中小製造業の生産管理・原価管理 完全ガイド を読んでください。また、在庫管理の入口としての基本 (なぜ在庫管理が必要か) は、以前に ▶ 在庫管理の必要性とその手法 の記事にまとめています。本記事はその発展版として、適正在庫と発注の具体的な考え方まで踏み込みます。

在庫の功罪 ── 持ちすぎも欠品も、どちらも損

まず、在庫というものの性格からそろえておきます。在庫とは、これから使う・売るために、手元に持っておくモノ のことです。材料も、作りかけの仕掛品も、できあがった製品も、すべて在庫です。

在庫でやっかいなのは、持ちすぎても、少なすぎても、どちらも損をする という点です。だからこそ「在庫は必要悪」と言われます。まったくのゼロにはできないけれど、あればあるだけ良いものでもありません。まずは、この両側の損から見ていきます。

在庫を持ちすぎる損 ── お金と場所が寝る

在庫を持ちすぎると、お金・場所・鮮度の3つで損 が出ます。

  • お金が寝る ── 在庫は「お金がモノに姿を変えたもの」です。売れて現金に戻るまで、そのお金は使えません
  • 場所が埋まる ── 倉庫や置き場を占領し、通路や作業スペースまで圧迫します
  • 古くなる ── 長く置くほど、劣化・型落ち・仕様変更で使えなくなるリスクが上がります

さらに、モノがあふれると「探す・数える・動かす」手間も増えます。多いほど安心と思いがちですが、持ちすぎた在庫は、静かにお金と手間を食い続けるのです。

在庫が少なすぎる損 ── 欠品で機会と信頼を失う

逆に、在庫が少なすぎると 欠品 が起きます。欠品とは、必要なときに必要なモノが足りない状態のことです。

欠品が起きると、次のような損が出ます。

  • 売る機会を逃す ── 「今ほしい」に応えられず、注文そのものを失います
  • 信頼が下がる ── 納期遅れが続くと、お客さまの信頼を損ないます
  • 現場が慌てる ── 急な手配・特急対応で、かえってコストと混乱が増えます

欠品を一度でも強く経験すると、人はつい「次は多めに持とう」と振れます。ですが、それが今度は持ちすぎの損を生みます。この振り子を止めるのが、次に出てくる「適正在庫」の考え方です。

だから「ちょうど良い量」= 適正在庫を探す

持ちすぎれば損、少なすぎれば損。ならば目指すのは、その真ん中にある「ちょうど良い量」 です。これを適正在庫と呼びます。

大事なのは、在庫を「悪者にしてゼロを目指す」ことでも、「安心のために多めに抱える」ことでもない、という点です。在庫は、生産や販売を止めないための必要な備えです。その備えを、必要なだけに絞り込む ── これが在庫管理のゴールです。なお、在庫は生産管理の結果として増えたり減ったりします。生産管理そのものの全体像は ▶ 生産管理とは で解説しています。

適正在庫とは ── 「ちょうど良い量」をどう捉えるか

在庫の功罪が分かったところで、本題の適正在庫に入ります。ここを押さえると、後の発注方式の話がすっと入ってきます。

適正在庫とは ── 欠品せず、ムダも出ない「ちょうど良い量」

適正在庫とは、欠品を起こさない範囲で、できるだけ少なくおさえた在庫の量 のことです。

言いかえると、「これ以上減らすと欠品が怖い」という下限と、「これ以上持つとムダ」という上限の、あいだにおさまる量です。守りたいのは「欠品させない」こと、削りたいのは「余分な在庫」。この2つを両立させる着地点が適正在庫です。片方だけを追うと、必ずもう片方が崩れます。

在庫には種類がある ── 材料・仕掛品・製品

ひとくちに在庫と言っても、モノづくりの現場では大きく3種類あります。それぞれで「適正」の意味あいが少し変わります。

  • 材料在庫 (部品・原材料) ── これから加工する前のモノ。調達の速さや発注のしやすさで持つ量が変わる
  • 仕掛品在庫 (作りかけ) ── 工程の途中にあるモノ。工程間の流れが悪いとここにたまりやすい
  • 製品在庫 (できあがり) ── 出荷を待つモノ。見込みで先に作るほど増える

つまり、在庫を減らしたいときは「どの種類がふくらんでいるか」を先に見分けることが大切です。材料が多いのか、仕掛品が多いのか、製品が多いのかで、打つ手がまったく変わります。

適正在庫は「1つの正解の数字」ではない

ここで誤解しやすいのが、「適正在庫 = 決まった1つの数字」だと思ってしまうことです。実際は、適正在庫はある程度の幅を持った目安 です。

理由は、需要も、調達にかかる日数も、日によって揺れるからです。今日の適正な量と、繁忙期の適正な量は違います。ですから「◯個ちょうど」と1点で決めるのではなく、「だいたいこの範囲を保つ」という 上限と下限の幅 で持つのが現実的です。この幅を具体的にどう作るかが、次の発注方式の話につながります。

発注方式は大きく2つ ── 定量発注(発注点方式)と定期発注

適正在庫を「幅」で保つには、いつ・どれだけ発注するかのルールが要ります。発注のやり方は、大きく 2つの方式 に分かれます。まずは全体像を早見表で押さえましょう。

2つの発注方式の早見表

発注方式は、次の2つが基本です。

方式ひとことで言うと発注のタイミング発注する量
定量発注 (発注点方式)減ったら頼む在庫が決めた線 (発注点) まで減ったときいつも同じ量 (決めた量)
定期発注方式決まった日に頼むあらかじめ決めた日 (週1回など)そのつど必要な量を計算

ざっくり言うと、「量を固定してタイミングを変える」のが発注点方式、「タイミングを固定して量を変える」のが定期発注方式 です。まったく逆の考え方になっているのが分かると思います。次の2つの見出しで、それぞれを詳しく見ていきます。

どちらを使うかは品目で変わる

先に結論を言うと、すべての品目を同じ方式で管理する必要はありません。品目の性格によって、向く方式が変わります。

  • 使う量が安定していて数の多い、安い定番品 → 発注点方式が向きやすい
  • 高価だったり、需要の波が大きかったり、大事な品目 → 定期発注方式で毎回見直すのが向きやすい

この「品目ごとに管理を分ける」という発想が、後で出てくるABC分析につながります。まずは、2つの方式そのものを理解しておきましょう。

発注点方式(定量発注) ── 「ここまで減ったら決まった量を頼む」

1つ目は、発注点方式です。中小製造業の定番品でいちばん使われる、シンプルで扱いやすい方式です。

発注点方式の在庫推移 在庫量 時間 安全在庫 (もしもの備え) 発注点 ● 発注点を割ったら発注 ┄ 調達日数ぶん待って入荷・回復 発注点 =(1日に使う量 × 調達にかかる日数)+ 安全在庫

発注点方式とは ── 在庫が「発注点」まで減ったら発注する

発注点方式とは、在庫が決めておいた量 (発注点) まで減ったら、決まった量を発注する やり方です。定量発注とも呼びます。

イメージは、水のペットボトルのストックと同じです。「残り2本になったら1ケース買う」と決めておけば、いちいち計算しなくても回ります。この「残り2本」が発注点、「1ケース」が発注量にあたります。減りぐあいを見張っておいて、線を割ったら頼む ── それだけの、シンプルで続けやすい方式です。

発注点の決め方 ── 「調達中に使う量」+「安全在庫」

では、その「発注点」はどう決めるのでしょうか。考え方はシンプルで、次の式で表せます。

発注点 =(1日に使う量 × 調達にかかる日数)+ 安全在庫

分けて見ると分かりやすくなります。

  • (1日に使う量 × 調達日数) ── 発注してからモノが届くまでのあいだに、使ってしまう量。これを切らさないための備え
  • 安全在庫 ── 需要が急に増えたり、入荷が遅れたりした「もしも」に備える上乗せぶん

たとえば、1日に使う量が一定で、発注してから届くまで数日かかる品目なら、「その数日ぶんに使う量」に「もしもの安全在庫」を足した水準を発注点にします。ここまで減ったら頼む、と決めておけば、届くころに在庫がゼロ近くまで下がっても欠品しない、という理屈です。具体的な数字は品目ごとの使用量と調達日数で変わるので、自社の実績から算出してください。

発注点方式が向くのは ── 使う量が安定した定番品

発注点方式が向くのは、使う量がだいたい安定していて、点数の多い定番品 です。

理由は2つあります。1つは、使う量が安定していれば「調達中に使う量」が読みやすく、発注点を決めやすいこと。もう1つは、いったんルールを決めれば、毎回計算しなくても回るので、点数が多くても手間が増えにくいことです。逆に、需要の波が大きい品目や、高価で在庫を寝かせたくない品目には、次の定期発注方式のほうが向きます。

定期発注方式 ── 「決まった日に、必要な分だけ頼む」

2つ目は、定期発注方式です。発注点方式が「量を固定」するのに対して、こちらは「タイミングを固定」します。

定期発注方式とは ── あらかじめ決めた日に発注する

定期発注方式とは、あらかじめ決めた日 (たとえば毎週◯曜、毎月◯日) に、そのつど必要な量を計算して発注する やり方です。

発注のタイミングは固定なので、「発注し忘れ」が起きにくいのが利点です。そのかわり、発注のたびに「次までにどれだけ必要か」を見積もる手間がかかります。減りぐあいを常に見張る発注点方式とは、手間のかかりどころが逆になっています。

発注量の考え方 ── 「次の入荷までに必要な量」から今ある在庫を引く

定期発注では、毎回の発注量を計算します。考え方はこうです。

発注量 =(次に発注するまでの期間 + 調達日数 に使う見込み量)+ 安全在庫 − 今ある在庫 − 発注済みで未入荷の量

言葉にすると、「次にまた頼めるようになるまで (+届くまで) に使うぶんを見込み、安全在庫を足し、そこから今ある在庫と発注ずみのぶんを引く」ということです。つまり、そのつど需要を読み直して量を調整する のが定期発注の肝です。ここでも安全在庫が「もしも」の備えとして効いてきます。

定期発注方式が向くのは ── 高価・需要の波が大きい・重要な品目

定期発注方式が向くのは、高価な品目・需要の波が大きい品目・欠品させたくない重要な品目 です。

これらは、在庫を余らせても欠かせても損が大きいので、発注のたびに需要を読み直して量を微調整する価値があります。手間はかかりますが、その手間に見合うだけの大事な品目にしぼって使う ── これが定期発注の使いどころです。すべての品目を定期発注にすると計算に追われるので、品目をしぼるのがコツです。

安全在庫の考え方 ── 「もしも」に備える最低ライン

2つの発注方式のどちらにも出てきたのが「安全在庫」です。ここは在庫管理のキモなので、独立して整理します。

安全在庫とは ── ばらつきに備えて上乗せする在庫

安全在庫とは、需要のブレや入荷の遅れといった「もしも」に備えて、あらかじめ上乗せしておく在庫 のことです。

もし需要も入荷もぴったり計画どおりなら、安全在庫は要りません。ですが現実は、急な注文が入ったり、入荷が1日ずれたりします。その揺れを吸収する「クッション」が安全在庫です。これがあるおかげで、多少の想定外があっても欠品せずにすみます。

多すぎても少なすぎてもいけない

安全在庫は、まさに「さじ加減」が問われます。

  • 多すぎると ── 使われないまま眠る在庫が増え、持ちすぎの損 (お金・場所) が出る
  • 少なすぎると ── ちょっとした想定外で欠品し、欠品の損 (機会・信頼) が出る

ここでも、持ちすぎと欠品の綱引きが顔を出します。安全在庫は「念のため多めに」としがちですが、それは在庫全体をふくらませる大きな原因になります。必要なぶんだけに絞る意識 が大切です。

安全在庫は「ばらつき」と「調達日数」で変わる

安全在庫をどれだけ持つべきかは、需要や入荷のばらつきの大きさ と、調達にかかる日数の長さ で変わります。

  • ばらつきが大きいほど ── 想定外が起きやすいので、多めの安全在庫が要る
  • 調達日数が長いほど ── 足りないと気づいてから届くまでが長いので、多めに備える必要がある

逆に言えば、ばらつきを小さくする (需要を読みやすくする)、調達日数を短くする ことができれば、安全在庫そのものを減らせます。安全在庫を力ずくで積むより、ばらつきと調達日数に手を入れるほうが、在庫は根本から減っていきます。厳密な安全在庫の量を統計的に計算する方法もありますが、まずは「ばらつきと調達日数で決まる」という感覚を持つことが実務では役立ちます。

ABC分析で優先順位をつける ── 全部を同じ手間で管理しない

ここまで方式や安全在庫を見てきましたが、全品目に同じ手間はかけられません。品目が数百・数千とあるなら、なおさらです。そこで役立つのがABC分析です。

ABC分析の考え方 ── 金額の大きい順に A・B・C へ 金額 (単価×使用量) 品目 (金額の大きい順に左から) 累積曲線 A (上位少数) B (中位) C (下位多数) A 手厚く管理 こまめに見直し・寝かせない B 標準的に管理 発注点方式などでほどほどに C ゆるく管理 まとめ発注で手間を減らす ごく一部の品目 (A) が、金額の大半を占める → 大事な A に手間を集中し、数の多い C はゆるく回す

ABC分析とは ── 品目を重要度でA・B・Cに分ける

ABC分析とは、品目を金額 (や使用量) の大きい順に並べ、重要度でA・B・Cの3グループに分ける 方法です。

現場の在庫は、たいてい「ごく一部の品目が、金額の大半を占めている」という偏りがあります。この偏りを利用して、「金額の大きい重要な品目=A」「そこそこ=B」「金額は小さいが数の多い品目=C」に仕分けます。すべてを平等に管理するのではなく、大事なものに手間を集中させるための、仕分けの道具です。

A・B・Cで管理の手間を分ける

分けたら、グループごとに管理の手厚さを変えます。考え方の目安は次のとおりです。

  • A (重要・高額) ── 手厚く管理する。定期発注でこまめに見直し、在庫を寝かせない
  • B (中間) ── 標準的に管理する。発注点方式などで、ほどほどの手間で回す
  • C (少額・多数) ── ゆるく管理する。多少多めに持ってもよいので、まとめ発注で手間を減らす

ポイントは、Cにまで手をかけすぎないこと です。金額の小さい品目に精密な管理をしても、得られる効果はわずかです。空いた手間を、効果の大きいAに回す ── これがABC分析の狙いです。

ABC分析は生産計画とセットで効く

在庫の管理を分けるとき、生産計画とセットで考える と、さらに効きます。

なぜなら、在庫がどれだけ要るかは「これから何を、どれだけ作るか」で決まるからです。生産計画がしっかりしていれば、必要な在庫の量も読みやすくなり、安全在庫も減らせます。逆に計画がぶれると、在庫はそのぶん多く抱えざるを得なくなります。生産計画の立て方そのものは ▶ 生産計画の立て方 で解説しているので、在庫とあわせて押さえておくと、管理の精度がぐっと上がります。

在庫回転率・回転日数で「動き」を見る

適正在庫や発注のルールを決めたら、それがうまくいっているかを確かめる物差しが要ります。よく使うのが、在庫回転率と在庫回転日数です。

在庫回転率とは ── 在庫が何回入れ替わったか

在庫回転率とは、ある期間のあいだに、在庫が何回入れ替わったか (何回転したか) を表す指標 です。

ざっくり言うと、「その期間に出ていった量」を「平均して持っていた在庫量」で割ったものです。回転率が高いほど、在庫がよく動いている (たまっていない) ことを表します。逆に回転率が低いと、在庫が滞って寝ている状態です。数字そのものより、同じ品目・同じ職場で時間を追って比べ、上がっているか下がっているか を見るのが実務的です。

在庫回転日数とは ── 在庫が何日ぶんあるか

在庫回転日数とは、今ある在庫が、何日ぶんに相当するかを表す指標 です。回転率の裏返しと考えてよいものです。

たとえば「回転日数が長い」なら、それだけ長く在庫を抱えている=お金が長く寝ている、ということです。回転日数を見ると、「この品目は何日ぶん持っているのか」が肌感で分かるので、持ちすぎの品目を見つけやすくなります。回転率と回転日数は、どちらも 在庫の動きの良し悪しを数字で見る ための道具です。

在庫は「お金」と「利益」に直結する

回転率・回転日数が大事なのは、在庫がそのままお金と利益に効いてくる からです。

在庫は、お金がモノに姿を変えて眠っている状態です。回転が悪い (長く寝ている) ほど、使えるお金が減り、資金繰りが苦しくなります。さらに、長く寝た在庫は劣化や陳腐化で価値が落ち、最後は損として処分することにもなりかねません。つまり、在庫を適正に保つことは、原価やキャッシュ (手元のお金) を守ることに直結します。在庫がなぜお金や原価に効くのか、その根っこにある原価の成り立ち (材料費・労務費・経費) は ▶ 原価計算の基礎 で解説しています。

在庫管理でつまずく 5 つの点 ── あるあると対処の方向

最後に、わたしが中小製造業の現場でよく見てきた「在庫管理でつまずく点」を 5 つ整理します。裏を返せば、ここを押さえれば在庫管理は前に進みます。

つまずき1 ── 帳簿と現物の数が合わない

いちばん土台になるのが、これです。帳簿 (データ) 上の在庫数と、実際に倉庫にある数が合わない 状態です。数が合わなければ、適正在庫も発注点も、砂上の楼閣になってしまいます。

対処の方向は、まず現物を数えて実態に合わせ、その後は「入った・出た」をきちんと記録することです。定期的に現物を数える棚卸しで、ズレを早めに見つけて直す習慣をつけると、在庫の数字が信じられるものになります。

つまずき2 ── 動かない在庫(デッドストック)が放置される

長いあいだ動いていない在庫 (デッドストック) が、倉庫の奥で放置されているパターンです。これは、お金と場所を静かに食い続けます。

対処の方向は、回転日数などで「何日も動いていない品目」を洗い出し、なぜ動かないのかを1つずつ見ることです。使う予定がないなら、思いきって処分・活用の判断をする。放置が続くほど損が積み上がるので、定期的に棚卸しして見つけることが大切です。

つまずき3 ── 欠品するとすぐ「多めに持とう」に振れる

一度欠品して痛い思いをすると、反動で在庫を一気に増やしてしまう パターンです。気持ちは分かりますが、これでは今度は持ちすぎの損に振れます。

対処の方向は、感情で量を決めず、なぜ欠品したのかを見る ことです。需要が読めていなかったのか、発注が遅れたのか、調達日数が長かったのか。原因に応じて、発注点や安全在庫を少しだけ調整します。全体を大きく増やすのではなく、外した品目だけをピンポイントで直すのがコツです。

つまずき4 ── 発注が担当者の勘だけに頼っている

発注のルールがなく、特定の担当者の勘と経験だけで発注している 状態です。その人が休むと発注が止まり、引き継ぎもできません。属人化とは、特定の人にしかできない状態のことです。

対処の方向は、勘を「発注点」や「発注日」というルールに置き換えていくことです。まずは点数の多い定番品から発注点方式のルールを決めるだけでも、勘への依存が減り、誰でも回せるようになっていきます。

つまずき5 ── 在庫削減が単発で、すぐ元に戻る

「決算前だけ在庫を減らして、また元に戻る」というパターンです。単発の削減は、続かなければ効果が消えてしまいます。

対処の方向は、発注点・安全在庫・ABCの区分を「決めたやり方」として残し、定期的に見直す ことです。ルールとして根づかせれば、削減は一度きりで終わりません。在庫管理も、改善と同じで「決めて・回して・見直す」の積み重ねです。改善を続ける進め方は ▶ 改善の進め方 完全ガイド にまとめています。

よくある質問 Q&A

Q1: 適正在庫の「正解の数字」はありますか?

1つに決まった正解の数字はありません。適正在庫は、需要や調達日数のばらつきによって動くため、「◯個ちょうど」ではなく、ある程度の幅で捉える のが現実的です。自社の使用量・調達日数・需要のブレを見ながら、上限と下限の目安を決め、それを実績に合わせて少しずつ調整していくのが基本です。他社の数字をそのまま持ってきても当てはまりません。

Q2: 発注点方式と定期発注方式、どちらを選べばいいですか?

どちらか一方に決める必要はなく、品目ごとに使い分ける のがおすすめです。使う量が安定した点数の多い定番品は発注点方式 (減ったら決まった量を頼む)、高価・需要の波が大きい・欠品させたくない重要品目は定期発注方式 (決まった日に必要量を計算) が向きます。次のQ3・ABC分析ともあわせて、品目の性格で選んでください。

Q3: 安全在庫は多めに持っておけば安心ではないですか?

安心ではありますが、そのぶん在庫全体がふくらみ、お金と場所を圧迫します。安全在庫は「もしも」の備えなので必要ですが、多すぎると持ちすぎの損に直結 します。ポイントは、力ずくで安全在庫を積むより、需要のばらつきを小さくしたり、調達日数を短くしたりして、そもそも備えを少なくてすむようにする ことです。

Q4: 在庫を減らしたいのですが、何から手をつければいいですか?

まず どの在庫がふくらんでいるかを見える化する ことから始めてください。材料・仕掛品・製品のどれが多いのか、回転日数の長い品目はどれか、を洗い出します。そのうえで、金額の大きいAグループと、長く動いていないデッドストックから手をつけると、少ない手間で効果が出やすいです。いきなり全品目をいじろうとせず、効果の大きいところから一点突破するのがコツです。

Q5: 在庫管理システムを入れれば解決しますか?

システムは強力な道具ですが、入れただけでは解決しません。適正在庫の考え方 (何を発注点にするか、安全在庫をどう決めるか) が整理されていないままシステムを入れると、あいまいなルールをそのままデジタルに移すだけになりがちです。まずは紙やExcelレベルで「発注のルール」と「棚卸しで数を合わせる習慣」を作り、回り始めてからシステム化に進むのが、失敗の少ない順番です。

Q6: 在庫を持つと、なぜ原価やお金に効くのですか?

在庫は「お金がモノに姿を変えて眠っている」状態だからです。在庫が多いほど、使えるお金 (キャッシュ) が減り、資金繰りが苦しくなります。さらに、長く寝た在庫は劣化や陳腐化で価値が落ち、最後は処分損になることもあります。だからこそ、適正在庫を保つことは原価とお金を守ることに直結します。原価そのものの成り立ちは ▶ 原価計算の基礎 で解説しています。

まとめ

本記事で押さえてほしい 3 行サマリーは以下の通りです。

  1. 在庫は 持ちすぎも欠品もどちらも損。目指すのは、その真ん中の 「適正在庫」= ちょうど良い幅
  2. 発注は 「発注点方式 (減ったら頼む)」と「定期発注方式 (決まった日に頼む)」 の2つ。安全在庫 で「もしも」に備える
  3. ABC分析 で管理にメリハリをつけ、回転率・回転日数 で動きを見る。在庫は 生産計画・原価と直結 する

在庫管理 (適正在庫・発注点) について解説しました。在庫は、多すぎても少なすぎても損をする、扱いのむずかしいテーマです。ですが、「適正在庫を幅で捉える」「品目に合った発注方式を選ぶ」「安全在庫は絞る」「ABCでメリハリをつける」という順で押さえれば、勘まかせの発注から一歩抜け出せます。まずは自社の在庫のうち、いちばんふくらんでいるものと、いちばん動いていないものを見える化するところから始めましょう。コツコツと積み上げて、お金の寝ない・欠品しない現場を作っていきましょう。

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